第5章 3.
「お前はあまりにも我慢強いよな。だから生きてこれたのかも知れないが。お前よりも怪人寄りな俺でさえ、ちゃんとした生活してんだ。一般的な日常、それは人であるお前にも権利がある。堅苦しく遠慮しないで普通に生きろよ」
わしっと、片手を私の頭に置き、僅かに揺する程度に撫でられた。
『私には…普通も幸せも分からない。繋がりはあんた以外無いし、故郷も無い。色々と欠落した私には一般的な日常なんて似合わない。
気ままにぶらぶら歩いて、博士に無理矢理押しつけられた力で怪人を駆除して一生を終わらせれば良い、それで人生、完だ』
「つまんねー人生計画だな、もったいねぇ」
面白くも無さそうに小さく笑ってゾンビマンは水切りを始めた。その多くの石はバウンドせずにボチャンと音を立てて沈むだけだったけれど。2度目は2回水面を走って、石は水面の下へ吸い込まれる。
水面から視線をずらし、バナナの在庫を見ればあと3本あるようだ。
私は相棒の組み立てが終わってない事を思い出し、組み立て始めた。
「──待てよ、一般的な日常が嫌なんだろ?…という事は…」
水切りを止め、ぼんやりと何か思考を巡らせるゾンビマンの横で、私は作業を進める。
カチャカチャと音を鳴らす私、組み立ての終盤にかかったところでハルカ、と名前を呼ばれた。
「ハルカ、お前も俺と同じ様にヒーローになれ。怪人共を駆除するのが趣味で、金も無いならZ市に行けば普通とまでは行かないが……人間らしい暮らしが出来んぞ。
あそこには危険指定区域の無人街と呼ばれる所があるんだ。ライフラインは問題ないが怪人が良く出る場所で格安で住めるが、お前なら問題ないだろ?」
…と石の上で座ったまま足を組み、私を指差して言うゾンビマンの口元は弧を描いており、目元には自信が見えた。
普段なら断っていただろう、このヒーローへの所属推薦。たった一つの残った繋がりという事もあり、間を置いて私は小さく頷いた。