第5章 3.
サラサラ…ザワザワ。
川の水が流れる音、周りの木々が風によって揺すられる音。時が流れていく。
私達には会話もなく、自然の声がいつもより大きく聞こえた。
思い出すように、さっきの空白部分と同じ形のピースが埋まった。
謎が解けたのだ、10年越しの謎が。ぼんやりと、シルエットに66号を当てはめるとまさに記憶が完成される。
『ああ…あの時逃げろって引っ張ってったのは…66号、あんただったのか』
私も遅れて一つ、ため息を吐く。
過去の謎が紐解かれた。私に逃げろと言ったのは、連れ出してくれたのは66号だったんだと。あの施設という、進化の家という籠の外でまた出会えたのだ。
房からおかわりのバナナをもぎ取って、皮を剥く。
少し間を空けてゾンビマンがああ、と返事をした。
「俺は死ねない。皮肉にもあの研究所で得た力を存分に発揮出来るのが、ヒーローという職だった。
ハルカ、お前は今、何してるんだ?その能力があるんだ、自然界でずっと生きていた訳でも無いだろ?」
私の相棒の銃に視線を向ける瞳。
確かにこういったものは自然物じゃないのは誰だって分かるだろうし、私も隠したりはしない。
『あの研究所を抜けて…ただ気の向くままにあちこちの街をブラブラして生きてきたな。生きる為にガラクタからちゃんとした物を作ったり、修理したりしてな』
「本当によく生きてこられたな、お前」
驚いた訳でもなさそうに言う。そんな所が昔と変わらない。
『自分でもそう思う、常にギリギリだ。私はこの生活が好きって訳じゃない。
勿論、年相応な事をしたいさ。美味しそうな匂いを出すお店を廻りたいし、ふかふかな布団で眠りたい。でもそれは普通の人がやるべきで、私の様な怪人寄りのやつはそんな日常に溶け込んではいけない、そんな気がする』
私は自分の手を見つめる。前髪が風で舞い、指同士に青白い電気が見える。
そんな私を見て、ゾンビマンはため息を吐くのだった。