第66章 64.
「A市まで遠いなぁ…」
サイタマが鍵を締めて呟く。
掛けた鍵をポケットに仕舞い、今じゃ人も車も通る事のない、ひび割れた道路に4人集まった。
「よし、A市までノンストップで走るぞ!」
「はい、先生!」
ノリなのか本気なのか…サイタマは腰に手を当て、行き先を指差して言うとジェノスは走る体勢を取った。
え?A市まで結構遠いのにここから走るの!?と走った方向に視線を向ければ人間とは思えない速度で消えていく2つの人影。
私もあれくらいのスピードなら、普通に風神の力で出せるけれど問題が消去法の如く残ったこのヒーローだ。
『ねぇ、あんたA市まで走れんの?』
確か風神と遭遇した時、凄いゼェゼェ言いながら電話してたな、ゾンビマン。
期待はしてなかったけれど、想像通りの答えが返ってきた。
「多分俺がA市まで全力で走ったら3回くらい死ぬぜ?」
『うん、そっか。じゃあ全力とは言わないから走ろう』
1人だけ飛ばして言ってもゾンビマンが可哀想だ。私は普通に走ることを選んだ。
俺運動苦手なんだよな、と言いながらも走り始める。ああ、もう仕方ない!タクシーを見付けたらそれに乗らせよう。そして費用の節約に私は地上を走ろう。
その為にもまずは危険区域から出る事が大事だよなぁ。後ろを振り返るとすでに呼吸の荒れたゾンビマンが走っている。
『……ねぇ、禁煙して筋トレ始めたら?』
「ああ?はぁっ、運動嫌いが!はっ、…筋トレなんか、するもんかよ!はぁっ、煙草は、少し…控えてるぜ?」
というか喋らせんな!と怒られてしまった。呼吸困難だろうが心臓麻痺だろうが、不死身だから関係は無いとは思うけれどな。煙草控えてるってどれくらい控えてるんだろう?通常より1本少な目とかそういうレベルだったら煙草の箱一杯に水を注いでやろう。
どっちにしろ一生懸命走ってるので口は出さずに、危険区域を出るのを優先して走ろうか。
走って、走って。
私にとって疲れたら風神の力でアシストすれば少し体を休ませる事が出来る。高く飛び上がるにしろ、前進するにしろ重宝する力だ。呼吸を乱す事なくたまに後ろを振り返れば、アレ?大丈夫かなこの人ってくらいに疲れている様子のゾンビマンが走っている。
私がムキムキマッチョな人間だったらゾンビマンを抱えてダッシュしただろうに。流石に私じゃ抱えるなんて無理だ。