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風雷暴見聞録

第65章 63.


目を覚ますと、自分の物ではない体温があって呼吸をするとその人の好きな煙草が衣服から香る。
顔を上げれば緋色は見えず、瞼が閉じられている。無防備でちょっと間抜けな顔だ。私の背や腰には腕が上から回されていてしっかりと包まれているんだ、と護られている感じに笑みが零れた。

…のはいいけれど、起きてくれなきゃ目覚まし設定したアラームが止められないんだよなぁ。

昨晩セットした携帯のアラームが煩く鳴って私は目を覚ました。
普段ならベッドサイドに置くものが絶対に手が届かない位置にある。その理由がゾンビマンが私を床からベッドに運んだから。
床でバイブレーションと共に鳴るアラームは、さぞ隣人を苛つかせているだろう。

『66号、起きて。起きてってば!』

ゾンビマンは起きない。
まあ、寝起きが悪そうだもんね、と諦めのため息を吐き仕方ないから、抜け出そうと腕を押しのけ床の携帯アラームを止めた。
夜と違ってカーテンから漏れ出す明かりは部屋をうっすらと照らす。カーテンを全開にして、ゾンビマンが寝ているうちに身支度を整える事にした。

トイレに行ったり、髪を整え洗面所で顔を洗ったり、歯を磨いたりしても部屋からは物音がしない。
服を着替えてベッドに寄って寝顔を見ると眉間に皺の無い、少し優しい顔をしていた。幸薄そうなゾンビマンがこんな表情をするとか、知ってる人は少ないだろうな。
ええい、携帯で写真でも撮ってしまえ!とカメラの音が鳴っても起きない。待ち受けにでもしてやらん事もない!と1人待ち受けに設定する。これは流石に私の中での問題で起きる事は絶対に無く。
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