第64章 62.
「別に良いだろうが、一緒のベッドに入るくらい」
『やだ。あんたが絶対変な事してくるのは見えてるし。腹を空かせたライオンの檻にうさぎを放つようなもんじゃない』
ゾンビマンの武器を取りだしたコートと自分の服で、床に簡単な寝床を作って私はそこに私は体を挟み込む。流石に客人を床に寝させる訳にいかないし、同じ布団で寝るっつったら…高確率でそういう…行為に至るに違いない。餓えてる様子だし。
別に嫌じゃ無いというかむしろゾンビマンなら良い。けれど、場所だな場所。薄い壁だ、ちょっと声を出したら丸聞こえだろうし。正直、声を抑えられる自信が無い。
電気をまだ消さない部屋で寝床に文句を言うのはベッドに腰掛けた黒いタンクトップのゾンビマン。
「じゃあ俺が床で寝る」
『駄目、ゼッタイ』
何処の広告だよ、と苛立つように呟いてスプリングをギチリと鳴らす。
目の前まで近付いてくるとしゃがみ込んで布団代わりに被っていた自分の上着に手を突っ込んだ。
『どこ触ってんのよ、変態!』
もぞもぞペタペタとまさぐるように手を入れ、膝裏に手を入れた所で浮遊感。被っていた上着は床に落ち、私の頭はゾンビマンの肩に触れる。
顔まで物凄く近い距離だ。真っ直ぐ私を見据え、緋色の目が私を捉えた後、距離が離れていく。
きっと僅か数秒だったんだろう、人の手による浮遊感。私の体がゆっくりとベッドに置かれた。
「ちゃんと食えてんのか?軽すぎる」
『…ここまでして私をこっちで寝かせたかったの?』
ん、と頷くように返事をして掛け布団を私に少しかぶせ、天井の照明を見上げた。
「堅い床で背中痛めてる奴を寝かせるのも嫌ではあるが、そいつはちげーなァ」
電気を消す為、垂れ下がる紐を引く。
真っ暗になった部屋で数歩、裸足の足音と、スプリングを軋ませてベッドが沈む感覚。