第59章 57.
ズキン。短い間隔の、一度だけの痛みが襲う。急に頭を使ったからなのか別の何かなのか。私がビルにめり込んでいた時を思い出す。
"何か"を言っていた。アレは、アレは確か…ああ、そうだ思い出してきた。
"サイコス様に貰っタ、わワタシだけのソラ"
サイコス様。76号は、そのサイコスとやらに仕えて居る…?
まるで肯定するかのような、それとも拒絶でもするかのような突風が一度吹いて私は思考を巡らせるのを止めた。
全ての生き物が共有するものをただ1人の物にするのはしてはいけない。この空はあなただけの物じゃない。
このまま大人しくしているのなら、話し合いで解決したい。けど、もしもこれ以上被害を出すのだとしたら。
──その時私はあなたを狩ろう、風神。
深呼吸をして私は立ち上がる。
両手を広げ、怪人の位置を絞る事に集中した。
───3時の方向に2体、11時の方向に1体を感知。結構遠くだ。
私は
建物から降り、アスファルトの上で風を出して走る。完全に治ってない状態で風神に遭わないように、治る前の今だけは。
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「サイコス様、サイコスサマ」
Z市の危険区域。
大きなビルの頂、白いフードの人影。その者は独り言でも呟くように誰かに話し掛けていた。
「わ私のコピー、まだ生きて…生きてる。元気でしぶとい……ウン…とっくにカンヅイてるよ」
フードが捲れそうで捲れない。
突風が枯れ葉を攫い、その人影の周りに吹き荒れる。
「…ウン、ワカッタ。掃除し、しなくちゃ、ウウ、ウ」
唯一見える爛れた口元が不気味な笑みを作った。
そしてその白いフードを被った者は辺りを見回す。豆粒程の大きさで見える、空を飛ぶ機械。
鷹が小鳥を狙うように、彼女は狙いを定めた。
この日、ハルカ達にとって、そして世間的には最初の事件が起こった。
鎌鼬で切り裂かれたプロペラ、中の空間の肉塊。ニュースで30秒ほど取り上げられた程度。この事件はこのヘリだけが被害を受けたんだと、行き交う人々は自分は関係ないと思っていた。
それが悪化していくとはまだ、誰も思っていなかったのだ。