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風雷暴見聞録

第58章 56.


「ハルカ、それを蓋したら後はジェノスに任せろ」

ぐつぐつと鍋の具材が踊る。私は蓋を閉めると、ジェノスがキッチングローブ無しでテーブルへと持っていく。
私は後から卵を持って席に着いた。そう、退院と昇格祝いに夕食はすき焼きとなったのだ。
すき焼き。それは初めての出会いだった。メインディッシュでありながら、その見た目に合わぬ匂いは、甘い匂いとしょっぱそうな匂いが混じり合っている。
ぐつぐつぐつ、ポココ。ガラスの蓋の中で音を立てる鍋。蓋を取り払い、各自箸を持った。

勧められた食べ方として、器に生卵を入れ先にかき混ぜた。そこに味の染みた具材を浸けて食べる。美味しい。
肉は1人3枚と制限される中、一枚目を食べてご飯を食べる。ネギを口に入れて咀嚼している時だった。
さっきから私を見て、咀嚼しているのか話そうかの口の動きをしていたサイタマ。ジェノスの方をみて、「あのさ」と遠慮がちに私へと話しかけられる。

「ハルカ、言いにくいんだけどよ。俺は前にイチャつくなら部屋に行けって言ったけどさ、喘ぎ声抑えろよ。退院記念にって激しくされたのは分かったからさ。俺もジェノスも居るんだぞ?」

ゲハッ!という勢いでネギを吹き出した。すごい顔で汚ねぇなとか言われたけど仕方ない。
何がどうなって喘ぎ声になったんだ!?アレか?私の泣き声を聞き間違ったのか?

誤解を解こうと、咳を何度かして調子を整えた。

『違う、違う。それ、私の泣き声だってば!』

ジェノスはクソでかいため息をし、首をゆっくりとふる。

「分かった分かった。いい泣き声だったからそういうのは余所でしてくれ、先生が可哀想だろう」
『だから誤解だ!いい泣き声って何だよ!』

立ち上がって、近くに飛んでいたネギをティッシュにくるんで投げ捨てる。
伝わってない。これ、絶対に伝わってないよね?ここで誤解を解かないと後々大変な事になる気がする。

『涙を流して泣く、の泣く!声を出して泣いてたの!変な声が出るような厭らしい事はしてない!』

身振り手振りで説明すると1人で何やってんだと言いたげな目のジェノス。
そしてサイタマはニヤニヤしながら、「あ、そう」と私をからかった。
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