第5章 3.
『チッ、よりによってバナナかよ……』
「嫌ならいいんだぜ?俺1人で食うからよ」
そう言われ空腹に勝てず、しぶしぶバナナの房から1本もぎった。
森の中に荷物を置いてきたというから待っていればバナナと武器をもってきたゼンラマン。
『それよりも服を持ってきた方が良い』
「服が無いからこの有様だ。あればとっくに着ているさ」
せめて葉でくるめ…。覚醒したアダムとイヴ、原住民以下だぞ、その格好は。
『あんた、自分の今の姿を考えて発言した方が良い。全裸の男が俺のバナナ食うか?とか普通の女なら悲鳴あげて逃げてるし、ガチホモだったら歓喜してる』
バナナの甘い香りの漂う、異質なこの光景。私は皮を剥き始める。
隣の男が舌打ちをした。
「"俺の"バナナとは一言も言ってねーだろ!」
文句が聞こえてきたけれど聞き流す事にした。それよりも食事が先だ。
皮を剥いてかぶりつく。そういえば今日最初の食事だったか。空腹なのもあって凄く美味しい。もぐもぐと止まらない咀嚼を繰り返す。
もう一口、また一口。そして…、
「さっきから失礼なやつだな。そういうあんたも全裸だったじぇねーか。人の事言えんのかよ?」
口を開けたまま手を止める。
全裸…?もしかして怪人を倒す前から見ていたのか?このゼンラマンは。とんだ変態野郎だな。本当にヒーローなのかがますます疑わしい。
ちらりとゼンラマンを見るとわずかに口元がにやけている。私はバナナではなく、その男の言葉に噛み付いた。
『はぁ?見てたのか、変態ヒーロー。一回牢獄ぶち込まれた方が良いんじゃないのか?』
「見たくて見たわけじゃねーよ、状況確認だ。
たまたま怪人を近くで倒した際に服をボロボロにされて、たまたまここで死んだから回復待ちしてて、たまたまあんたが素っ裸で居るのをたまたま見ちまっただけだ」
わざとか、これはわざと連呼しているのか。偶然だとか他の言い方があるだろうに自分の姿を意識して言ってるんじゃないだろうか?
『さっきからたまたま連呼するな、変態が。さっさと服を着ろ、服を』
「だから服が無ぇんだよ!」