第56章 54.
『こんなに近くに居るってのに寂しがらせるなんて、配慮が無いぞ!』
眉間に皺を寄せ、重ねられた私の手から引き抜いた手でポケットから携帯灰皿を出して吸い殻を始末する。
肩を小刻みに上下させ、携帯灰皿を仕舞うゾンビマンは顔を背けている。こ、こいつ笑っていやがる…!
「クク、電話ん時は寂しくなんかないってよ、はっきり言った誰かさんがそう言うか?」
『アレは…!その、寂しかったとか言えなかったに決まってんでしょうが……っ』
数日ぶりに顔を熱くして、ゾンビマンから顔を逸らす。電話の時のやつ、墓穴を掘ってしまった。
素直に言えば恥ずかしいし、誤魔化せば後悔する。後悔するよりはマシだ!倒れそうなくらいに恥ずかしいけれど。
『ゾンビマン、その、私…素直に好きだとか寂しいとか言えなくてごめん』
どうしても好き、の部分は声を控えめにしてしまう。目も合わられず、自分の腿の上でギュッと握りしめた手の甲を見て呟いた。
そんな私の言葉もきちんと聞いてくれる。
「素直じゃないくらいが良いんだよ。それに電話の時もお前が寂しがってるって事くらい俺には分かんぞ。恋人だからな」
そろそろ家に帰ろうぜ、そう言ってゾンビマンは立ち上がった。
そんな時間?と携帯を見てみると2時。あ、全然携帯見てなかったけれど、色々通知が来てたみたいだ。充電もそろそろヤバそうだ。
「部屋でゆっくり休め。痛む体で絶対に無理すんなよ」
ゾンビマンが送っていってやる、と私の手を取って立ち上がらせた。