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風雷暴見聞録

第56章 54.


膝に乗った刀を持ち、まじまじと見る。そこそこ重量がある。そりゃあ鉄で出来ているんだもんなぁ。見た目、派手な装飾はない。柄の部分には金属や銅線が巻き付けてあり、所々エナメルが剥かれている。
鞘を持ち、刀身を外気に晒す。濡れたような、透き通ったような金属音。鞘から抜き取られ、光を受けて輝く刃は鋭い。

「日本刀、打刀というよりも脇差って所だな。刀身の中から電気流せるように加工して貰ってな、その柄の所からお前の電気を流し込めば良い。
で、鞘に入れた状態で電気を流すと小尻、この鞘の先端だな。そこから電気が流れる」

説明を楽しそうにしているゾンビマン。そういえば、コートの中は物騒な武器庫状態だったな。そして刀についてこんなに詳しいのはゾンビマン自身が日本刀を使っていたからか。

目の前の誰も居ない空間に刀を向ける。握りしめた柄に指先から電気を流し込むと刀身周りを青白い電気が纏わりつく。
電気を流すのを止め、そっと鞘へと刀身を収めた。

『有難う。これでもっと戦える。でもこんな良い武器良いの?
すぐにあんたを追い抜いちゃうよ?』

その目を覗き込めば煙草を一本取りだして加えた。余裕そうに鼻で笑って。

「そいつは楽しみだ」

キン、とライターの音。シュ、と火を着けて煙草を吹かし始める。
公園内の子供達の楽しそうな声。そこから離れたここベンチ付近では静かだ。
食べ物を持っていないのに、足下をうろつく鳩。首が前後する様子が見ていて面白い。座ったまま良く見ようと少し身を前にすると飛び去り、離れた別のベンチに座る老人の元へと標的にしたようだった。
隣を見上げれば、緋色ははしゃぐ子供達を見つめている。口に加えられたタバコはつつけばポロリと落ちてしまいそう。

貰った脇差しを腰に取り付ける。
今までの私の戦い方だと、接近戦はあまり得意な方じゃなかったから、これでやりやすくはなる。
…使った事は無いから、後でゾンビマンにチャンバラしてもらおう。

再び隣を見れば、同じように見続けている。考え事をしているのか、子供達に何か思うのか。でも、折角一緒に居るんだしちょっとは構ってくれても良いんじゃないか?寂しかったんだぞ?
目線を下にやると、私とゾンビマンの間の隙間、ベンチに手を置いている。その手の甲に片手を重ねた。私より体温が低い手だ。
見上げれば緋色の双眼はこちらへと向けられていた。
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