第56章 54.
食事をしたおかげで私の空腹が治まる。
かつおだしのスープが美味しかったな、と満足した。
支払いを済ませて(ゾンビマンが払おうとしたので私が先に)外に出る。いろいろを奢って貰ってばかりで本当に申し訳ない。病院での治療費・入院料も手続きの際に払っていたというから本当に申し訳ない。
目的もなく、ぶらぶらと歩く。人の視線と、ヒーローネームを何度も耳にして、有名になってしまうと自由が無くなるな、と思った。
いつもよりゆっくりと歩くゾンビマンの後ろ、目の前の男が曲がった先には公園があった。
親子連れが遊具で遊んでいる。幾つかのベンチで食事を摂る人も見かけた。
ゾンビマンはキョロキョロと周りを見て、空いたベンチを見付けたらしく、「座ろうぜ」と手を引いた。正確には私の手首を掴んで、だけど。
「歩き回って疲れたろ?配慮が無くてすまねぇな」
私の隣にどかっと座り足を組む。ベンチが脆いのか、勢いがあったからか。動くたびにベンチの素材の材木が軋んだ。
ガサガサ煩い病院で貰った薬をベンチの脇に私は置く。重くはないけれど、手ぶらだと開放感があっていい。
『丸一日寝ると、少し体力が落ちるもんだね…』
それとも、打撲した足を庇うように歩くからか。そんなに長い距離だとは思わなかったけれど、少し息が上がってしまった。
ぼーっと空を見上げる。上の方の空気の流れが速いのか、雲が形を崩しながら流れていく。雲は良いなぁ、見ていると時間を忘れさせてくれる。
ヒーローになる前はこうして空を眺めていたっけ。
空を見る私の膝に少し重い物が置かれた。
なんだ?と目線を自分の膝に移せば、膝の上には全長60cmはある鞘に入った刀だった。
「それ、やるよ。お前にぴったりな"特注品"だ」
ニヤリと笑って言う。
"ようこそS級ランクへ"
私の頭を乱暴にガシガシと撫でた。
ゾンビマンの手が私の後頭部に触れて大きなたんこぶに触れた。そりゃあ結構痛かったから『痛い』と言葉を漏らせばと「すまん、忘れてた」と言って撫でるのを止める。
たんこぶなんか無ければ、もっと撫でていて欲しかったけれど、直ぐには無くならない。次、76号に会ったら次こそ、自分の手でケリをつけたい。
私がクローンだろうが、関係ない。私は私、1人の人間なのだから。