• テキストサイズ

風雷暴見聞録

第55章 53.


目が覚めたら白い天井。光が、とても眩しかった。
私が目を覚ますと直ぐにサイタマの声がした。ジェノスの声も。視線をあちこちに移動させると、ゾンビマンも居た。
確か……私が落下してる時に、ゾンビマンが助けてくれたんだっけか。それで私は今、病院に居るのか。

上体を起こす。なんだか凄く喉が渇いた。受け取ったペットボトルを開けようとするも手に力が入らない。
そんな私を見てジェノスが私からペットボトルを取り、キャップを開けてくれた。
冷蔵庫にあったような冷たさじゃないけれど、乾いた喉には丁度良い冷たさで潤った。

そうだ、渇いた喉で思い出してきた。あの掠れた声を。
私は、私の方がクローンだっていう事を。

『あいつは、オリジナル。完成形で風神という名前を貰ったと言ってた。私は後に雷神って名前を貰う事になってたらしい…けれど未完成なんだって』

しくじりだと言っていた。私はあいつのしくじり。
恐ろしいほどの風を扱っていた。私はあの域に至っては居ない。未完成。
私にはずっと自信は持っていた。荷物がなくてもずっと博士に付加されたこの力だけはあった。なのにあの恐怖に足がすくみ、こちらから手を出すこと無くあっけなく病院送りにされた。

「未完成で良いんじゃねーの?完成したらお前をそんな風にしたヤツになるんだろ?お前は立派な人間じゃねーか」

サイタマが優しく前髪の辺りを撫でる。

「俺達にしたらお前が本物だ。その76号ってやつは完成した怪人って事だろう?お前はお前だ」

ジェノスの言葉にうん、と一つ頷いた。私はあんな風になりたくない。アレが本物だなんて信じたくない。
私は私。あいつはあいつ。77号と76号なんだ、私は人間性を捨てている訳じゃない!

「目ぇ覚めたら退院出来るだろ?ちゃんと夕飯前には帰ってこいよ、退院祝いと昇級祝い、奮発すっからな!
じゃあ、ゾンビマン、頼むな。無理させるなよ?」

行こうぜ、ジェノス!とサイタマ達は病室を後にしていった。後は若い者に任せて、という謎の言葉を残して。
静かになった病室。布の擦れる音と頭をシャリシャリと掻く音が隣から聞こえる。
/ 318ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp