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風雷暴見聞録

第54章 52.


瞼を閉じて暗い世界。風を受けながら真っ逆さまに落ちていく私。
落ちた先に待っていた衝撃は強烈は痛み・叩き付けられる感覚ではない。肩や腹部に痛みを感じ、ぐえ!という情けない声が聞こえた。
下に落ちてたハズがちょっとおかしくなってる事に気が付いて瞼を開いた。

「馬鹿、無理に接触すんなっつっただろうが!」

煙草臭いやつに抱きかかえられている。アスファルトにダイブする前に無理して助けてくれたんだろうか。
おい!と怒鳴るように、心配するように話し掛けている。壁にぶつかった時のだろうか、まだ頭がはっきりとしない。
少し日陰の2つの赤を見上げ、生きているという事に安心した私は瞼を閉じた。

****

すやすやと一定の間隔でこいつは布団の膨らみを上下させて眠っている。
ここは病院。かすり傷を負い、様子が変なハルカ。ビルにめり込んでたし、体を思い切り打ち付けたんだろう、と急いで病院に行ったが驚く事に症状は軽かった。
俺だったら直ぐに治る傷は普通の肉体では直ぐには治らない。ずっと見ていて痛々しい。打ち付けた打撲痕、かすり傷。
…あと、大きなたんこぶだそうだ。

脳震盪を起こしてる訳でもないという…が、この眠り姫は病院に連れてきてもずっとこのままだ。
ベッドサイド側、椅子に座ってずっと彼女の寝顔を俺は見ていた。

そういえば、昔もこうやって眠るハルカの顔を見ていたな。傷だらけな所もあの時と変わらない寝顔。
感傷に浸っていると廊下からこちらへと近付く音が聞こえてきた。

こつこつ、と控えめな音と入ってくる2人組。俺がハルカの世話を頼んだ奴らだ。

「ハルカ、まだ目覚めねぇの?」

ハゲマントがガサガサと音を立てて、サイドテーブルにペットボトルを置いた。
病院に連れてきて丸一日。ハルカは目を開けない。魘される事も、寝息を立てる事も無く静かだ。時々死んでるんじゃねーかと思って、首筋に触れた。鼻もとに手をやって呼吸をしてるのか確かめては安心した。

「ずっとこの調子だ…」

折角、S級になったから祝おうとしてたってのに。サイドボードに立て掛けた特注の刀に視線を移す。
俺が見えたのは白いヤツ。遠くて良くは見えなかった。何を話しているのかも、ハルカが何故あんな風に叩き付けられる事になったのかも知る事は出来なかった。
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