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風雷暴見聞録

第52章 50.


「割と近いな。どうだ、飯食ってねぇなら今から一緒にどうだ?ちょっと渡したい物もあるしよ」
『い、いやだなぁ、まさか…』
「あ?どうしたんだよ?」

携帯の向こうのゾンビマンは可笑しそうに言った。私が何か照れてるとか冗談だとか言ってるように思ったんだろうか?
私に近付く影が覆う所で私は立ち上がり、恐る恐る振り返る。

『嫌だなぁ、こんなに…おめでたいって時に、"私"に遭ってしまうなんて』

「……ハルカ?」

異変に気付いてくれたらしい。
私の目の前に立つのは白い服でフードを被った人。身長は…私と同じくらいだろうか?

「ロクジュウ、ロク号……?ハルカ……?ナナジュウナナ…号、」

ぞくり。体中から危険を察した。
その枯れた声は私が風邪でも引いてるかのような声。

「ハルカ、おい!ハルカ!」

走ってるのか、風の音と荒い呼吸が携帯から聞こえる。
目の前の白いそいつは自分自身を抱き、ブルブルと震えた。ウウ、ウウウ…と呻き声を発している。
少しだけこの屋根の上にも風が吹き始める。私は息を飲み込んだ。喉がカラカラだ。

『お前が、私のクローン…?』

片方の耳で私の名前を呼ぶ携帯。もう片方の耳はその場の声を。
震えていた白いそいつは震えが止まり、唸り声も止まった。風もピタリと止んだ。
肩が上下する。ククッ、という笑い声が聞こえる。

「"私のクローン"…?お前の、クローン?ハハ、ハ…チガウ、チガウ…何もかも、チガウ」

己を抱く腕を解く。その手は爛れているように赤黒く、年寄りのように骨張っていた。
その片手をゆっくりと自らのフードを、まるで髪をかき上げるように取った。

──そこには、一部の頭部と片目付近の皮膚が私のような、そしてそれ以外は手と同じように赤黒く爛れて骨張った者が居た。
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