第47章 45.
危険区域に入り、歩を進める。
前方からは静けさ。後方からは少しのざわつき。
進む足が乗らない。見えない重りでも付いているかのように。
ついにはもうすぐで家が見える所まで来てしまった。痛む胸の上、服を片手でしっかりと掴んで痛みと沈黙に耐える。
「さっきからどうしたんだ、調子悪いのか?何かあるならちゃんと言えよ」
数十分ぶりに聞いた声。少し安心出来た気がする。
足を止めると、ゾンビマンも足を止めた。
『ゾンビマンは本当に、本当に私の事が好き?昨日のは私があんな風に取り乱したから、慰めで言ったんじゃないよね?』
「んなつまんねー嘘を言うわけがねぇ、好きに決まってんだろ。あ、なんだお前、不安なのか?」
からかうような笑みを浮かべている。そこを突っ込む気が今は無い。
どうしてしまったんだろう、私は。1人で居るのは慣れていたハズなのに。それに、サイタマもジェノスも居るじゃない。たまに顔を見せる、こんな眉間に皺を寄せた不健康なヘビースモーカー、もう二度と会えない訳じゃないじゃないか。
そんな事を考えたらまた締め付けられるような感覚。最近とくに多い。ゾンビマンのコートの袖から少し出た指先に手を伸ばすと、私の冷たい手に熱が戻ったような気がした。
『心臓が、締め付けられるような感じや、運動しているわけでも無いのに高鳴ったりする。今も。ここん所、最近変なんだ…』
折角、こう再会出来たのにな。そう思うと余計に締め付けられる。健康体で生きていたつもりけれど、どうやら医者に掛かっていない間に潜伏していた病が末期のようだ。こんなんじゃ…なるべく一緒に居たい。
これはなんだろうか?初期症状もなく進行して、症状が出る頃には死んでしまうような病なんだろうか。
ゾンビマンは深刻そうに考えている。
「病気、か…。具体的にはどういう時に締め付けられたり、高鳴るんだ?」
場合によっちゃ病院に行かないといかんな、と煙草の箱を取りだして直ぐにしまった。
私がこんな状態だから、好きな煙草にさえも気を遣わせてしまっただろうか?