第46章 44.
「送ってく」
送ってく、という事はサイタマの部屋に泊まらないだろうな。
何だろう、身勝手かも知れないけれどまた離れるのが寂しい。言葉に出来たらどんなに楽か。胸がきゅうっと締め付けられたような感覚がある。
『今日はゾンビマン、ウチに泊まんないで帰るのか…』
ぴたりと足を止め、驚いた様子で見つめられる。なんかおかしい事を言ってしまった?
「泊まっていけとか言うのか?」
『う、うーん?なんていうか…もう少し居ても良いんじゃないのかなって…』
うーん…と、ゾンビマンは何か呻いて数歩先へ歩いて止まる。
急に止まったせいか、自転車の人が少しよろけながらゾンビマンを避けて行った。
「お誘いはありがたいが、そういう期待させんのはやめとけ。泊まるのはまた今度だ」
はて?何かからかうような事を言ってしまったのか?訳が分からないまま、その背中を追いかけると、足音で分かったのか止めた足を進め始めた。
危険区域に近い街だからか、栄えている割に歩く人は疎ら。歩道は十分あるし、少し速度を上げて隣を歩く事にした。
車が通ると排気ガスの臭いがする。そして歩みを進めればレストランから肉が調理される香りや、バターの香りがする。でも、今はお腹がいっぱいだ。
いつまでも黙っていて、口を開こうともせずに進むゾンビマン。
話題が少ない男か、とも思ったけれど時間が経つにつれて嫌な思考が芽生えてくる。嫌だからさっさと送りたいだとか、昔逃げ出す時のはぐれた原因の罪悪感で義務としてこうしてるんじゃないかって。私が泣き出したから、あんな事を言ったから慰めの言葉を言ったんじゃないのかって。
沈黙が続くほどに私の中では不安がどんどん募っていった。ああ、あの症状が発症している。胸が痛い。
数十分、黙ったまま隣を歩いてここまで来てしまったか。危険区域に到着してしまった。