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風雷暴見聞録

第4章 2.



「こんな所に人間がいやがった。女だ、柔らかそうだ。丁度腹も減ってるし食うか」

余裕そうに舌をピロピロと出して唾液を垂らす、半魚人。
水から上がったばかりの体表を流れ落ちていく水音。光を受けて輝く鱗。助けを求める気は無いが、普通の人間なら叫び声を上げていたであろうか。濡れた髪をかき上げて、私は頭をぽりぽりと掻く。

『こんな所に怪人がいやがった。魚だ、ちょっと不味そうだ。丁度暇を弄ばしてるし、やるか』

相手の言葉そっくりそのままというより、アレンジして返せば魚らしい口をパクパクして「舐めてんのか?」と無表情のまま近付いてくる。
そっと腰回りに手をやれば、いつもの感覚は無く。
相棒は今、メンテナンス中で使うことが出来ないんだった。しまったなぁ、とも思ったが、私の戦闘スタイルは銃だけではない。

『ベルト着ける前で良かったな、お前。滅多にお目にかかれないヤツで死ねるんだからな』

片手を前に出し、指を鳴らせば指先から、昼間でも明るすぎる程の青白い光。
ビビビ、バリッ!という空気を震わせるような音と、魚の焼ける臭いも漂ってくる。僅かにジュウ…ッと焼ける音も聞こえるのが食欲をそそる。一撃だった。通電がよく、もう怪人は話すことはない。痙攣をし、魚の体と人の名残のある四肢をピンと伸ばして、ゆっくりと体が川辺に倒れる。
ドンという音ではなく、ビチャッという湿っぽい音であった。

「………」

文字通り、死んだ魚の目をして動かない塊を蹴って川から追い出した。陸に魚とも人とも判別出来ないものが転がる。
随分美味しそうな匂いを出すもんで、食べられるか見たかったからだ。だが、生焼けだ。匂いは焦げた傷口から漂うも、近づけば魚人の体臭は生臭くて食欲が吹っ飛びそう。

『……食え、なさそうだな…うん、ここだけは美味そうな臭いだけど食ったらコレ腹壊すな…』

ホクホクとした白身の傷口をつついていると、砂利を踏みしめる音。
瞬時、振り返りながら相手に手を向けた。

『誰だ?』

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