第38章 36.
俺の言葉を遮って、ハルカは両手で自分の顔を隠す。そして小さく呻く。
恐らくどういう風に言えば良いのか、考えているんだろう…。
片手が荷物のある状態ではあるが、その間に俺は煙草を取りだして火を付ける。土産のたこ焼きが入った袋が揺れてガサガサと鳴った。
吐き出す煙の向こうで未だに考えるハルカ。どんな声色で、どんな顔で言うのかが楽しみだ。
「お前が言ってた事、それは俺と近いものがあったんだ。違いは俺の場合死ねない体だから死ぬ事が出来ねぇ。
俺だってお前よりも怪人に近い存在だ。親も居ないし、好かれる事や愛される事に慣れちゃいない。ただ、10年前から確かに俺はお前が好きだったんだぜ?」
ぷかぁ、と煙を吐き出す。考えで呻く声はぴたりと止まる。
好きという感情に気が付いたのは、離ればなれになって数年、ふと思い出に浸っていた時。気が付いたからこそ酷く後悔した。
俺を何度殺そうが、殴ろうがこいつが俺へと抱く気持ちは分かっていた。言葉にするのがとても難しい様だが、こうやって仕返しとばかりに苛めるのもめちゃくちゃ楽しい。
ただ、こうやって巡り会えた。俺にとって、こいつの想いを口に出して貰うのが、あの時連れ出した報酬のようなものだ。そして、その報酬はここ最近の様子を見るに確実なものだろうと俺は考えている。
にやつく俺の顔も見ずにハルカは俺の名前を呼んだ。
声が伝わるように、口元だけは見えるくらいに顔は隠してはいるが。
『ゾンビマン、私はあんたの事が好きだよ。あんたは私に色々と良くしてくれるし、与えてくれる。
私には、あんたに良くしてくれた事の借りや貰ったもの、まだ何一つ返せていない、だから──』
近付くハルカ。隠した顔は真っ赤で俺の前に立つ。
素早く俺の目を手で隠し、何をするのかさっぱり分からないままにくわえていた煙草がもぎ取られた。
そしてぎこちなく、唇と唇が触れる。
目隠しが終わって、煙草が元在った口に突っ込まれて再びの小柄な背中。
『これはその一部だ、返しとく』
なんだこれ。予想以上に可愛い事するじゃねぇか。
あまりの衝撃に動けず、俺は固まったまま、何度か瞬きをした。
ズンズンと進む背中に、『置いてくぞ!』と叫ばれて俺は小走りで彼女を追った。