第38章 36.
怒りの歩調で進む目の前の女。
そして痛む俺の頬。折れた歯が今、ようやく口内で生え揃った。あれは本気の拳だった。
ハルカは拳で俺の頬をブン殴った。格闘家か!と言いたいほどに力強い拳。流石は10年ほぼ野生化しただけはある。痩せてはいたが筋力はあった。
「おい、そんなに急ぐなって。…息切れてきた」
『煙草ずっと吹かしてるからだろ!勝手に息切れしてろド変態!』
こちらを見ずに背中を向けたままそう返してくる。
さて、なんでこうなったか?それはまぁ、きっと…いや、俺が100%悪いんだろう。
ハルカが上目遣いって言葉を知ってるかは知らない…が、俺を見上げて"もう二度と離さないでね?"なんて言う姿は情欲を煽るものがあった。
なんとなく気になった少女が大人になり、何度か裸体を見(させて貰い)、そっけない態度からのこれだ。いつからだろうか、俺はこの女に惚れていた。
ハルカも俺をぎゅっと抱きしめてたし、雰囲気はまさにアレだアレ。このチャンスを逃したら同じタイミングはしばらくは来ないだろう。
俺は腕の力を緩め、少し下で見上げるハルカにキスした訳だ。柔らかかったし、驚いて俺に回した手で胸板を控えめに押す姿はもう戦いのゴングを打ち鳴らしてるも同然。
しかもそこは路地裏だ。人が居ない。
風俗なんて随分行っていないが、なかなかに刺激的だ。ましてや惚れた女が腕の中に収まっている。実際興奮して、俺の性のシンボルがせっかちにも半分ほど起き上がっていた。
荷物を持った手で引き寄せ、さっきまで引き寄せていた手でハルカの尻を撫でると体がビクッと反応した。手は太腿の付け根からそっと触れたい場所を指先で往復する。ハルカは俺の名を一度、少し怒ったように呼んだ。
男の性が暴走する。これは止まれない。夜の(まだ明るいけれど)泥仕合確定だ。
もう一丁、キスしてみるか。そう思ったもつかの間。
『盛ってんじゃねーよドスケベが!』
照れか怒りかで真っ赤になったハルカのグーパンが俺の顔面に決まった。あっと言う間に元気になったじゃねーか。
狭い路地裏、右の壁に激突する俺。スタートラインに立ったのに失格になった気分だ、畜生。
結局はお預けだ。今晩は俺の右手が慰めに入るしかないだろう。心のなかで下半身に侘びた。
そして今に至るってわけだ。