第37章 35.
「お前の世界は狭いな。めちゃくちゃ狭い。10年前よりもお前の世界は更に狭くなってるんじゃないのか?」
『はぁ?』
何を言い出すかと思ったら、世界は狭いだって。
返事の返し方が分からない。戸惑っていると、察してくれたらしい。
「さっきのお前の言葉だよ。それはお前の中の世界だろ。もっと視野と世界を広げろ。せっかくの自由なんだ。
愛されてないだとか死にたいとか、もう二度と言うんじゃねえ…!」
普段私に言う口調ではなく、本気で怒っているのか激しい。ゾンビマンは言った。
「お前の同居人はどうなんだ?お前に駆け寄る一般人は表面だけで必要としてんのかよ?
何よりも俺はどうなんだよ。ふざけたこと言いたい放題言ってよ、俺だけは少なくとも、お前を愛してるぜ」
背中に回された腕が少しキツくなった。
タバコの香りとほんのり汗の匂いが混じり合って、抱きしめられる体の表面の他に肺いっぱいまでゾンビマンに染められている。
「だから、俺にはお前が必要だ。俺がお前を愛して生かす。折角進化の家から連れ出したっつーのに今度こそ死なれてたまるかよ!」
『……バッキャロー、何がお前が必要だ、だよ。何が愛して生かす、だよ』
背に回した両腕を、ゾンビマンと同じように少し強める。より体が密着して、まるで一つの生命体の如く体温がじわじわと広がっていく。
もともと不健康そうなゾンビマンでも、今の私にとってはとても暖かい。暖かすぎてもっと欲しいと縋ってしまいたい。たくさんの欲しいものを与えてくれるあんたに依存する。
『もう、二度と離さないでね……?』
頭を上げて涙を余分に溜めなくなった瞳で双方の緋を見上げた。
驚いた様に見開いて、少し細められる緋色。私はこの緋が好きだ。
「任せときな。何度致命傷受けようが離さねぇよ。今度こそ、絶対に」
少し傾けた顔。ゾンビマンは黙って近付いてくる。
冷えた私の唇に熱が灯された。