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風雷暴見聞録

第37章 35.


「おい、どうしちまったんだよ?」

ハルカ?と名前をゾンビマンは私の背中に問いかける。
薄暗い路地裏。その名前は私に向けられたもの。

『肉親も養父も居ない。私がずっと、希望していたものだった…私は誰からも愛されては居ないんだ、表面だけで結局は必要とされていないんだ。
期待を持ってしまった私は救いようがない。絶望するしかないよ。
私は何の為に生を受けたのかな…何の為に生き延びてしまったの…?』

溜め込んでいたモノが塞いでいたモノをぶち破り、一気に吹き出したような気がした。

『愛されないのなら……捨てられてしまうのなら……いっその事死んでしまった方がマシだ!』

この後にも言いたい事はたくさんあった。けれども言葉が纏まらない。纏まる前に次々と言葉が脳内に溢れるし、何よりも声が上手に続けて出せない。
ひゃっくりの様な呼吸、そして両目が熱く濡れた。手で拭っても拭ってもどんどん溢れるばかりで止まらないんじゃないのかと思うほどに。胸が締め付けられるような感覚も襲ってきた。心臓の病で死んでしまうなら、本望だ。病でも銃でも怪人でも、何でもいい。私を今すぐ殺してくれ!

狭い路地、私を少し掠めてゾンビマンは背後から先に進んだ。
そうか、私は唯一の古い繋がりであるゾンビマンにも捨てられたんだ。
いよいよ残された命ある限り、自暴自棄な人生を送ろうか、と思い始めた所で思考が止まった。

背を押された…?いや、倒れ込んだ先には体温がある。
私の先に進んだと思ったゾンビマンは、私の目の前に来て、腕を私の背に回しているんだと気が付いた。

「俺が見たかったのは、お前のそんな顔じゃねぇのにな…」

優しく呟く声。シャリシャリと頭を掻く音。
目の前のシャツと胸板。染みついた煙草の香り。好きではないはずの香りなのになんだろう、とても安心する。胸の痛みだとか不安だとかが蒸発していくように。
そのシャツを染めていく私の涙。拭うに手の入るスペースが無いし、なんだか寒い。目の前は暖かいから、と私はゾンビマンの背に両腕を回して長い時間声を上げて泣いた。

****

嗚咽も止まり、気持ちがとても楽になった。
そんな私の気持ちが分かったのか、ゾンビマンが背をとんとんと優しく叩く。まるで小さな子供でもあやす様に。
抱きしめられたまま、沈黙を破ったのはゾンビマンだった。
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