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風雷暴見聞録

第35章 33.


博士は眼鏡がずれたのか、指先で直して更に続けた。

「力は同じく風神と雷神、風と電気を意識的に起こす事が出来るんだ。確か…リメイク済みの方は風の力の方が強かったかな?だとするとここにいるハルカは電気を扱う個体の方、だったかな?」
「あ?"個体"だぁ?」

"個体の方"

他人事のような言い方だった。
淡々と博士が説明を終えた所で、一つ舌打ちをしたゾンビマンが博士を殴った。
鈍い音と、勢いで体を横に倒すジーナス博士。棚の中の食器が衝撃でカチャン!と鳴った。割れたかどうかなんて分からない。

ゾンビマンはコートの中に様々な武器を仕込んでいる。私の様に、ゾンビマンも孤児だったのかも知れない。今殴ったのは傷を付ける事や殺す事を目的とした暴力じゃ無さそうだ。
もっとも、殴り続けて殺すという惨い方法もあるけれど。

「…よくもハルカのクローンを作ってリメイクと称して傷を付けられたな。それで良く今頃になって父親面出来たな?
ハルカは俺みたいに簡単に怪我は治らねぇ。ハルカは女だ、なのにいつも怪我してた。そうしたのは貴様だろうが、ジーナス博士!
なのに昨日の博士はどうなんだよ。今更、ああいう言葉や表情して許されると思ってんのか?」

勢い良く立ち上がったゾンビマンは博士の元に寄る。そしてシャツの胸ぐらを掴む。
昨日博士がゾンビマンにどんな顔をして、どんな言葉を交わしたのかは分からない。私が知るのは久しぶりに会う今日の博士だ。私には見当も付かない。

ちちおや。アルバム。

ずきり。私の中で何かが蝕んでいく。つららのように尖ってチクチクとする。目頭が熱く、喉の奥がぐっと痛む。
堪えるように、溢れ出しそうな"ソレ"を無理やりにでも抑えるように拳をぎゅっと握り締め、立ち上がった。
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