第34章 32.
研究室にあった物騒な品々。それが見あたらない。
玄関から上がり廊下を行き、茶の間に通される。初めて来る場所だけれども少し懐かしい香りがした。
ゾンビマンは先に積まれた座布団から2枚取って、それを並べる。片方に座り、座れよ、と顎で合図されたのでそこへ座った。
奥からゴリラと懐かしい声のやりとりが聞こえる。私のぎゅっと握りしめた拳の手汗が凄くなっていた。
やがてお茶を3つお盆に乗せて、テーブルに置きに来るゴリラ。
ゾンビマンに対するイライラした時の心臓のうるささとは違う、うるささ。緊張しているのだ、久しぶりの博士に。
ゴリラの後に懐かしいジーナス博士がやってきた。10年前とさほど変わりがない。オリジナルとクローンを見分ける髪の分け方がオリジナルの方だ。
「やあ、今日も来たんだねゾンビマン。そしてハルカ…久しぶりだね」
『……あ、……ッ、……うっ、
……は、はい』
こういう時はなんて言えば良いんだろうか?
私は何を言いたい?どんな気持ちなのか?フラッシュバックの様に思い出が蘇る。今まで過去を振り返った時の事や、忘れていた事、色々。
大きな入れ物に入れられて電気を流された事。
人工的に作られた鎌鼬をぶつけられた事。
嫌いな注射を何度も何度も打たれた事。
痛い、やめて、許して、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。許していい子にしているから。ごめんなさい。
当時の私の気持ちが一気に押し寄せる。実験にされる事に恐怖を感じてた。悪い事をしてないのに、罰を与えられるように。
蘇る思い出からの憎しみ。そして、優しかった養父らしい一面も思い出してくる。
頭にあった記憶なのか、体の記憶なのか。
温かく大きな手で優しく撫でる仕草。優しく笑った時。実験されたモノを見て余りの惨さに眠れない時、一緒に眠ってくれた事。
勉強を教えてくれた事。クローンにお父さんと呼んだ時に照れくさそうになんだい?と返してくれた事。風邪を引いた時に看病をしてくれた事。
全てがオリジナルの博士ではないけれど、クローンもオリジナルと一緒だ。オリジナルのコピーなんだから。
渇いた喉に、熱めのお茶を少し流し込む。手汗で冷えた手には少し熱かったけれど、ようやく話せる状態になれた。