第33章 31.
『……空気が重い。何か喋れ』
「奇遇だな、俺も同じ様な事考えてた」
歩みは止めず、人の居ない街を歩く。カラスや犬、猫くらいしか見ない。
人工的に発せられる音は私達の足音。他は自然の音だけ。もっともっと先に行けば危険区域を出る事になって、人もあらゆる音も溢れかえっているというのに。
何か話題を見つけたらしいゾンビマンは歩みを止めぬままにこちらを振り向いた。
「そうだ、なんでお前俺の時だけそういう話し方なんだ?別に他のやつと一緒で構わないんだぞ?」
ほら、あいつらとかテレビの取材とかよ、と付け足す。あいつらとはサイタマとジェノスの事を言ってるのか?
『サイタマとジェノスは…そう、住まわせて貰って直ぐに普通に話せって…』
「俺にもあいつらと同じように話せば良いんじゃねーのか?昔の時みたいによ。俺はあいつらよりもお前とは昔から面識あるし、昔のお前は俺にも普通に話してたろ?」
…そうだったっけか?思い出せば確かにそう。だからといって今から普通に話せと言うの?それはそれでなんだか恥ずかしいというか、以前みたいで少し嬉しいだとか色んな気持ちが私の中で交じり合う。
『何か、その、今更あんたに普通に接してもだな、』
「ああ?何だお前、照れてんのか?」
『別に照れてなんか…』
立ち止まって身を僅かに屈め、覗き込むゾンビマン。表情は意地悪そうに、まるでイタズラを企む少年のようだ。
私は何故バレた?と手で顔を隠す。顔に触れた手はいつもより熱い。
目の前で細められる2つの赤い瞳。
「別に今回は茶化しはしねぇよ。むしろ最初会った時より感情が出てて良い事だし、バンバン気持ちを出せ。ただ、」
私の方を見ていたゾンビマンは背を見せて続ける。
「俺以外にそういう顔はナシな」
『……はぁ?』
つかつかと先を行く背中。
待て!と先に進む背を私は追いかけた。
3度程意味を問いつめたけれど、結局その意味は教えてはくれなかった。