第4章 2.
私は親の愛情なんて知らなかったし、この時の私の世界は孤児院と研究室だけで構成されていて、その時の気持ちを今思い出せば……誰かに助けを求めていたんだと思う。
そう、例えばヒーロー。孤児院で同じくらいの歳の子とヒーローごっこをして遊んだ事があった。まさか後の世でヒーローという職が出来るなんて思っていなかったけれど。
神でも仏でも孤児院の母でもお医者さんでもヒーローでも、なんだっていいから、この絶望から解き放って欲しかったのだ。
私の部屋を変えてすぐの頃だったか。
"「77号」"
落ち着き、低い男の声。
『この名札は本当の名前とは違うの。77号じゃなくて私はハルカっていうの!』
孤児院以降で初めて、仲間が出来た。博士のクローンでもなく、見た目が人間だった。
聞かなくてもその人も私と同じ様な扱いを受けているんだろう。"66号"…私のような名札が付いていた。年は幾つだろう?私よりも大人だった気がする。
66号は不健康そうな肌の色に、血液を彷彿させる緋色の瞳。そして黒い短髪。会う時は面倒くさそうな、眠そうな、もしくは機嫌が悪そうな表情だった。笑った顔は見た事がない。それでも私に怒ることも暴力を振るうこともなく、人として接してくれた。
そんな66号とは、友達って言うほど遊んだ事も沢山話した事もないけれど、時々話をした。
外は今日どんな天気なんだろう?とか、今日のご飯はカレーかな?とか今思えばつまらない話だった。私がここに来た過程も話したけれど、66号は親については分からない、とだけ教えてくれた。
些細な事だけれども、誰かと話すって事自体が閉鎖された空間で温かい気持ちにさせてくれた。孤児院ぶりの友人のような、ここに来たばかりぶりの家族のような、一緒にいて楽しいと思えた人だった。