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風雷暴見聞録

第4章 2.


雷を受けて瀕死になった私を引き取ったのはジーナスという博士。他の健康的な孤児が沢山居るのにも関わらず、赤黒く変色した体を包帯が隠す、そんな私を嫌な顔一つせずに選んでくれた。
孤児院にはもう戻る事も無いだろう。絵本で見たヘンゼルとグレーテルのように帰り道なんて分からないのだから。
それでも私は良かった。この人は私の願っていた家族なのだから。

瀕死の私が奇跡的に健康体になり、包帯を外す。不自然なくらいに綺麗な見た目に戻っていた。熱で溶けた頬の肉もある。痛くない。ごわごわじゃない肌だ、すべすべに戻っていた。
私が元気になっても教育に温かい布団にお風呂、ご飯が毎日あって…。気持ちがとても温かかった。焼けただれた皮膚も綺麗に治ったけれども、変色してしまった髪だけはどうしようもなかった。
孤児院の時、良く外に遊びに出かけていた私だった…けれども、ジーナス博士の元に来た時からは殆ど外に出る事なく、籠の鳥となってしまった。外で遊ぶ自由は無くても、それでも、この籠の中は快適だったのだ。ジーナス博士は本当は高齢であるのにとても若い姿をしていて、私の歳を考えれば若めの父親というくらいだった。そう意識し始めると、念願の家族を手に入れられたのだと私は内心喜んでいたのだと今では思う。

ある時、家族というモノが恋しくて、ジーナス博士を『おとうさん』と呼んだ事があった。博士は少し黙って眼鏡を掛け直し「私の事は"ジーナス博士"…と、呼びなさい」と言われた。
それ以降私の中の"何か"が崩れ始めていく。
博士はやがて"養子"ではなく"実験体"として私を見るようになって──非人間的扱いを受けた。ハルカという名よりも実験体としてのナンバー名で呼ばれ始める頃には、私は完全に外に出して貰えなくなっていた。
孤児院で大嫌いだった、たまにある注射も毎日されて慣れてしまっていた。注射よりももっと痛い事を試されて、痛がる私を余所に博士はとても嬉しそうにペンを走らせていた。
ここに来た時の喜びはもう私の中には残っていない。絶え間ない痛みの中、哀しみと憎しみと悔しさで涙が止まらなかった。泣く私に心配の声は掛けられなく、孤児院に戻りたいとベッドの上で願う事も少なくなかった。
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