第32章 30.
「はい?俺が対峙した怪人の中に?」
丁度湯上がりのジェノスにサイタマが聞く。
質問はこうだ。今までに雷と風を扱う怪人に遭ったか。怪人という言葉がなければ私なのだけれど、見た目はどうなのかは分からないという。
「俺が戦った相手には居ませんし、俺が先生と一緒に居た相手にも居ませんでした」
ブオーという音を出しながら、ジェノスは片手で髪を乾かす。掌のパーツは食器の乾燥にも使うけれど、こうやってドライヤーにも使う。
サイタマは髪が無いのでこの部屋にはドライヤーが無いのだ。だから半乾きの髪である私もジェノスのもう片手を借りて髪を乾かさせて貰う。
サイタマにはいつもの光景(ちょっと羨ましそうなのは、髪があるからだろうか?)で慣れているだろうけれど、ゾンビマンは顔をしかめている。そりゃあ不思議な光景だろうな。
「そうか。俺も怪人の能力しか聞いてねぇんでな。外見がどうだとか、そこまでは聞いちゃいないんだ。明日、ジーナスに会うついで聞いてみるか?
お前のクローンの事」
──そう。私も知らないうちにクローンが居たらしい。
クローンが出来るといえばジーナス博士には出来た。博士自体がクローン人間を作り出して助手として自分を使っていたのだから。
「お前が知ってるかどうかは分からねぇけど、風神・雷神シリーズって言ってる通り2体で一セットなんだとよ。だからクローンを作ったのかも知れない」
「だとしたら恐ろしい事になるかも知れないな」
ジェノスが自分の髪を乾かし終え、両手で私の髪を乾かしに掛かりながら言った。
わしゃわしゃと犬でも撫で回してるのかと言わんばかりに容赦がない。髪先が鞭のように動くもんだから余計にサイタマは変な顔をしている。
「もしもハルカと同じ姿で暴れるような事があれば、ヒーローとして世間を騒がしているこいつに悪評が出る」
そのクローンが友好的なら良いんだがな、と付け加えて暖かい風を出しながら乾かされる。
今の私にしろ、昔の私にしろ人に危害を加えたいなんて思った事はない。けれども博士がクローンに何か加工していれば問題だ。