第2章 横浜コーヒータイム
「チッ。だから泣くな…」
「ご、ごめんなさいぃ…」
「はァ…俺様の役に立ちてぇのか?」
「は、はいっ…」
「…だったら、ずっと俺様の傍に居ろ」
「へ…?」
ずっと傍に?
「いつもの阿呆面で、いつもみてぇに俺様のコーヒー飲み来い」
「そ、それって今まで通りじゃ…」
「じゃあこれからは事務所じゃなくて、俺様の家にも飲みに来い」
左馬刻さんの家に行けるのは嬉しいけど、それが左馬刻さんの役に立つ事と何の関係が?
そんな事を考えていると、左馬刻さんに顎に手を添えられ顔を上にあげられる。
「さ、左馬刻さん?」
「目ぇ、閉じろ…」
へ?
ちょ、ちょっと…
ゆっくりと近付いてくる左馬刻さんの顔から目が離せない。
「さ、左馬刻さっ…」
もう少しで互いの唇が触れようとした瞬間、短いノック音と共に部屋の扉が勢いよく開いた。
「若ー!車の用意が出来やし…」
「……」
「ヒッ…!?こ、コレハコレハ…お、お取り込み中、で…」
「オイッ…!!!」
「は、はひぃ っ…!!」
「…これ片しとけ。行くぞまい…」
「は、はいっ…」
用意してもらった車に左馬刻さんがエスコートして乗せてくれた。
左馬刻さんが扉を閉める音が、いつもより妙にデカく感じた。
『…………』
車が発進してしばらく、お互いに会話はない。
ふと車が赤信号で止まり、そのタイミングで左馬刻さんを盗み見すると、めちゃめちゃ不機嫌そうな顔をしていた。
それにさっきから、タバコの本数がえげつない。
「あ、あの左馬刻さん…?」
「…何だ」
「さ、さっきの…」
さっきのって、もしかして…
「き…」
「……」
って、そんな事聞けないっ…!
しかももしそうじゃなかったらどうすんのっ…!?
「…き」
「………」
や、やっぱり聞けないっ…!
「…さっき部屋に置いてあったコーヒーは、俺様が淹れたやつじゃねぇ」
「…へ?」
私がウンウン唸っていると、左馬刻さんが話し始めた。
「ま、どうせ香りで気付いただろ?」
「は、はい」
「あんなンよりとびきり美味いコーヒー淹れてやるよ」
そう言って、左馬刻さんに頭を撫でられる。