第2章 横浜コーヒータイム
左馬刻さんのコーヒー淹れ方がとても手馴れていて、素人の私からはプロと同じぐらいのスキルを持っているのではないかと錯覚する程だった。
『まあ、店で出せる程のモンじゃねえが遠慮せず飲めや』
『い、いただきます!』
碧棺さんに淹れてもらったコーヒーを一口飲む。
ほどよい酸味と苦味が絶妙にマッチしている。
この美味しさの大半はコーヒー豆のおかげではあるだろうが、左馬刻さんの淹れ方も相まっていると思う。
今まで飲んだコーヒーの中で一番美味しいと感じる程の代物だった。
『物凄く美味しいです!お店出せちゃいますよコレ』
『そうか?』
『はい!今まで飲んだコーヒーの中で一番美味しいです!』
『ハッ、それはいくらなんでも褒め過ぎだろ』
『そんな事ないですよ!淹れ方も様になってたし、碧棺さん本当に凄いです!」
『…左馬刻だ』
『へ…?』
『俺様の下の名前だ』
『そ、それは知ってますけど…』
これはもしかして、名前で呼べって事?
『さ、左馬刻さん…』
『おう。んで、お前の名前は?』
『くろばまいです』
『まいか…』
そう言った左馬刻さんが少し笑ったような気がした。
(ドキッ…)
ん?
今、胸の辺りがキュッとなったような…
『若ー!手当てするやつ持ってきやした!』
『…お、おっせぇんだよダボが!早く貸せ』
『へ、へぃっ…!』
懐かしいなぁ。
そんな事を思っていると、部屋にあるコーヒーメーカーにふと視線が止まった。
「…飲んでも大丈夫かな?」
ご丁寧に近くに置いてあったコーヒーカップにコーヒーを注ぐ。
「あれ…?」
左馬刻さんが淹れてくれるコーヒーにしては、いつもより大分香りが弱い気がした。
「誰か他の人が作ったやつなのかな…?」
そんな事をぼんやり考えていたせいか、コーヒーカップを足元に落としてしまった。
「あ、熱っ…!?」
スカートを履いていたため膝などには掛からなかったが、足首の隙間に少しコーヒーが掛かってしまった。
「あちゃー…」
割れてしまったコーヒーカップを急いで拾おうとすると、鋭くなったカップの破片で指を切ってしまった。
「いった…!?」
あれ?
私こんなドジっ子属性だったけ…
血が滲んだ指先を確認するのと同時にガチャッと扉が開いた。