第3章 大阪スイッチ(※)
「あれー?おかしいなあ?全然離れてくれへんやん」
「じゃ、じゃあちょっとは力緩めて下さいよッ…!」
「緩めるもなにも、俺全然力入れてへんでぇ?」
…マジかよ。
「…なあまいちゃん、ちょっと話しようや」
「…い、嫌です」
「なんで?」
「な、なんでって…」
「…まいちゃんの家には今日は行かへんから、どっかで入って話そ?」
「え…」
それって、私がさっき簓さんを置いて帰ろうとしたから…?
「夜はまだ冷えるし、どっか入ろ。なんかええとこある?」
「え、えっと…」
お店がある周辺から大分遠いところまで来てしまった。
ここから一番近くて、ゴタついた男女が話せる場所と言えば…
「…な、なあまいちゃん」
「…は、はい」
「ほ、ホンマにここで良かったん…?」
「い、いや…」
すみません。
ココしかなかったんです…
ここは先程の公園から一番近いラブホテル。
昔付き合っていた彼氏と来てから一回も利用した事はない。
「ま、まあしゃないか…」
「す、すみません…」
「まいちゃん大分飲んどったんやな」
「はい…」
「話しよって言っといてあれやけど、俺も飲んでもええ?」
「も、もちろんです!ていうか、私も飲みます」
「え、ま、まだ飲むんか?」
「誰かと居るのに乾杯しないなんて酒呑みじゃないですから」
そう言って部屋の冷蔵庫からビールを二缶取り出し、一つを簓さんに渡した。
「はい。じゃ、じゃあとりあえず…」
『…乾杯』
そう声を合わせて、フタを開けてビールを一口飲んだ。
静寂が部屋に鳴り響く。
「…クッ、ククッ」
「…フッ、フフフッ」
「ちょ、何でこんな静かなん…」
「だ、だって話があるって言ったのは簓さんじゃないですか…」
「ちゅーか俺らさっきまで喧嘩しとったやろ…」
「そ、そういえばそうですね…」
簓さんと目が合う。
その瞬間、二人で大声で笑い合った。
最初に会ったあの日をふと思い出す。
「あ、簓さんご飯食べました?何か出前取りましょうか?」
「ちょ、自分ホンマに今の状況分かっとる?」
「空きっ腹にお酒は良くないですよ」
「ほんならすき焼きで」
「ラブホにそんなのありません!」
ああ。
いつものやりとりだ。