第3章 大阪スイッチ(※)
「行くでまいちゃん」
私の荷物を簓さんが取りに行き、それを持ったまま歩き出した。
「ちょっと、まいさんの荷物どこに持って行くんですか?」
「どこにって、まいちゃんの家に決まってるやろ。今日も仕事終わってから泊まる約束しとんねん。なあ、まいちゃん?」
約束って…
「…彼女でもないのに」
「?」
私なんか、ただのセフレじゃないですか。
「まいちゃん?」
キスの一つもしてくれないくせに。
「…大将、今日は帰ります。お店の前ですみませんでした」
「い、いえ。お会計はまた今度で大丈夫ですよ」
「はい…」
「ほな帰ろかまいちゃん」
「…はい。荷物ありがとうございます」
そう言って、簓さんから少し強引に荷物を奪い取る。
「…さよなら」
「へ、まいちゃん…!?」
別れの言葉を告げて、一気に走り出した。
今は簓さんと一緒に居たくなくて。
「はあっ…はあっ…」
家に行ってしまうと簓さんが来てしまうかもしれないと思い、地元の人しか分からないような小さな公園まで来た。
先程までだいぶ飲んでいたため、少し気持ち悪くなってしまった。
「ウッ…歳かな…」
「いやちゃうやろ。まいちゃんどんだけお酒飲みはったん?」
「ヒェッ…!?」
膝に手をついて呼吸を整えてきたら、急に後ろから簓さんの顔が現れた。
「ちょ、危ないて!」
簓さんに手を引かれ抱き止められる。
「お酒飲んでるんやから気ぃつけんと…」
「…は、離して下さいっ!」
「…それ傷付くから言わんといてくれへん?」
そう言われ強く抱き締められる。
「わ、私…離して下さいって言ったんですけど…」
「えーなんて?よう聞こえんわー」
イラッ。
この時初めて簓さんに腹が立った。
「彼氏でもない人に抱き締められたくありません。だから早く離して下さい」
「…ほおー、そかそか。ほんならはよ離れてみ?」
そうニヤリと笑う簓さんに言われて、その腕の中から逃れようと試みたが、体がビクともしない。
う、嘘だ…
簓さん、どちらかと言うと華奢であんなにスタイル良いのに…
こんな馬鹿力が一体どこに…