第3章 大阪スイッチ(※)
止めたくても溢れる涙は止まらなくて。
何度も目を擦っていると、大将が私の手を掴んだ。
「た、大将…?」
「泣かないで下さい。自分は、まいさんの笑った顔が好きです」
「大将…」
心の中がジワリと暖かくなるのを感じた。
大将が私を優しく抱き締める。
暖かい。
「まいさん…」
大将の顔がゆっくり近付いてくる。
そうだ。
私と簓さんは恋人同士でも何でもなくて。
セフレなんて、何人増えても変わらない。
そう目を閉じようとした時、後ろから誰かに引っ張られる感覚がした。
「まいちゃんから離れえや」
さ、簓さん…?
「何度も電話したのにこんなとこにおったんか」
簓さんの口調がいつもより強く感じた。
「あなたは?」
「アン?兄ちゃん俺のこと知らへんの?」
「…ぬ、白膠木簓!?」
「知っとったんならええわ。この子のお会計は今度払いに来るさかい」
「あ、い、今払いますっ」
「ええから。はよ行くで」
そう簓さんき強く腕を引かれる。
いつもは嬉しいその行為も、今は少し違和感を覚えた。
「…は、離して下さい」
「…今何て言うた?」
「ッ…」
いつもと変わらない表情のハズなのに、簓さんのその言葉に背筋が凍る感覚がした。
もしかして怒ってる…?
…何で?
「まいさん嫌がってるじゃないですか。とりあえず手を離しては?」
「なんやお前、ええ度胸やんけ」
こんな簓さん知らない。
いつもニコニコしてて、言葉には全部音符とか星がつくような事ばかり言って。
「俺、まいさんの事が好きで今告白してた最中だったんです」
「ほー…?」
だけど今の簓さんは、まるで私の知らない人…
「まいさん、とりあえずお店の中に入りましょう」
「入らんでええ、荷物は俺が取りに行くわ。なんやったら今会計も払ったる」
「…あなた、まいさんの何なんですか?」
「は…?」
「彼氏さん…ではなさそうなんで」
そうだ。
簓さんは私の彼氏じゃない。
「彼氏やなくてもお前に関係ないやろ。これは二人の事や」
彼氏…じゃない。
簓さんから出たその言葉に、体が完全に固まってしまった。