第3章 大阪スイッチ(※)
簓さんと会う時とは違い、簡単に支度を済ませる。
最近はめっきり行く機会の減ってしまったお店へと足を運んだ。
一人飲みによく使っていた居酒屋さんだ。
「どうもー」
「はい、いらっしゃま…ああ、まいさんじゃないですか!お久しぶりです。お好きな席にどうぞ!」
声を掛けてくれたのはお店の大将。
いつも明るくて、私の仕事の愚痴も嫌な顔一つせず聞いてくれる。
この店をまかされているが、歳は私と同い年ぐらいだ。
「最近見掛けなかったので心配してましたよ。お元気でしたか?」
「はい。あ、そういえば私の入れたボトルとかって、まだ置いてありますか?」
「ああ…実は古くなりそうだったので、お客様に了承を得てお出ししてしまって」
「そうだったんですか。すみません…」
「いえいえ!また飲みに来て下さって嬉しいですよ!そうだ…」
大将はそう言うと、私の目の前にウイスキーのボトルを置いてきた。
「これは?」
「なかなか手に入らないんですが、まいさんが好きそうな味だったのでとっておいたんですよ」
「本当ですか?嬉しい!」
「とりあえず一杯飲んでいただいて、もし気に入っていただけなかったら違うのをお出しするんで」
「ありがとうございます!」
久しぶりに顔を出して良かった。
大将のオススメしてくれたウイスキーは本当に私の好みで。
簓さんとのモヤモヤを消すため、いつもよりなかなかハイペースで飲んでしまった。
「…まいさん?そろそろ休憩したら?」
「あー…そうですね!少し飲み過ぎちゃったかもです!」
「外にも灰皿あるから少し涼みに行かれては?」
「はーい!いってきまーす!」
お酒を飲むと普段よりハイテンションになる。
これは大抵の人がそうだろう。
簓さんと居る時は控えていたタバコを箱から取り出す。
自然と簓さんの前ではあまり吸わなくなっていた。
ほんの少しだけでも良いから、簓さんに女として見られたくて。
タバコを吸っただけで簓さんの態度が変わる事はないと思うが、簓さんと出会ってから化粧をいつもより丁寧にするようになったし、スキンケアやダイエットにも自然と意識がむくようになった。