第3章 大阪スイッチ(※)
朝になり目が覚めると、簓さんはもう仕事に行っているようだった。
もやは恒例になりつつある簓さんのメモには、お昼に生放送の番組に出ると書いてあった。
時計を見ると、あと少しでその番組が始まりそうだ。
コーヒーを入れテレビの電源をつけた。
『今日のゲストは、関西で大人気のお笑い芸人。白膠木簓さんです』
『はいどもー!白膠木簓ですぅ!って、最近は関東でもちょこちょこ売れて来てるんですけど?』
その簓さんのコメントにスタジオに笑いが起こる。
「やっぱり面白いな簓さん」
今テレビに出ているその彼が、まさか私とセフレになっているなんて。
『今日は話題の俳優さんと女優さんがご結婚されるというおめでたいニュースで話題が持ち切りですが、白膠木さんは結婚願望はありますか?』
『そうやなあ。前はなかったけど、最近は結婚するんもええかなって思ってきましたね』
『それはもしかして、今どなたか結婚したい相手でもいらっしゃるんですか?』
『なんや東京のテレビも結構グイグイ聞いてきますね。そうですね、この子とやったら結婚したいなって思った事は最近ありましたね』
『そうなんですか?』
こ、これって…
もしかして私の事…
『でもその子とは全然会えなくて、毎日寂しく枕を濡らす日々ですわ』
そんな事を言いながらシクシクと泣き真似をする簓さんのコメントに再びスタジオに笑いが起きた。
全然会えないって…
私とは週一ぐらいでは会ってるし、しかも枕は涙じゃなくてむしろよだれで濡れてる所しか見た事ないし…
『だから今は絶賛恋人募集中ってことで!皆さん白膠木簓に清き一票をよろしゅうお願いしますー!』
『それだと選挙ですよ!』
『お、東京の人もなかなかええツッコミしはりますねー!』
テレビから笑い声が聞こえているが、私の耳には届かなかった。
「やっぱり、恋人なんかじゃなかった…よね」
確かにお互いに付き合ってとは一言も言っていないし、この関係について深く話した事もない。
会って飲んで体を重ねるだけ。
でも、それって恋人も同じなんじゃ…