第4章 小さな出会い
杏寿郎は店主の言った言葉を今ひとつ汲み取れずにいた。確かに六華のことは、大切か大切でないかと聞かれれば迷わず大切だと答える事が出来る。六華のことは千寿郎と同じくらい大切で何ものにも変えられない存在だ。しかし、店主が言っているのはそれだけではない気がする。杏寿郎は「う〜む」と考え込んでしまった。そんな杏寿郎の姿を見て、店主は棚からひとつの簪を差し出した。
「では、そんなあなたにはこれを」
「む?」
店主が差し出したのは雪の結晶の飾りがついた簪であった。
「これは、見事な簪だな!」
「はい。私が冬を題材にした一品です。雪の結晶には《再生》と《浄化》という意味がございます。宜しければ貰ってはくれませんか?」
「む?しかし…」
「息子を助けて頂いたお礼です。先程の私の言葉に答えが出ましたら、ぜひ六華さんにお渡し下さい」
「分かった!せっかくのご好意だ!ありがたく頂戴する!」
「はい。お2人の未来に幸多からんことを」
そう言って店主は静かに笑った。杏寿郎が店主から簪を受け取り、羽織の中にしまったところで六華と千寿郎、龍と母親がやって来た。
「兄上!六華さんを見てください!!とても綺麗ですよ!!」
少し興奮気味な千寿郎に言われ、六華に視線を向けると見慣れない髪飾りがあった。
「うむ!確かに!その髪飾りはどうした?」
『あの…』
「息子を助けて頂いたお礼に私が贈らせて頂きました」
六華の髪にはガラス細工で作られた椿の花の髪飾りがあった。少しはにかみながら自分を見る六華に杏寿郎は一瞬息を飲んだが、すぐに気を取り直した。
「うむ!見事な椿の花だ!似合っているぞ六華!」
『あ、ありがとうございます…』
真っ直ぐに自分を見ながらそう伝えてくれる杏寿郎に照れながらも、六華は嬉しそうに微笑んだ。そんな2人の様子を夫婦は静かに見守っていた。
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「世話になった。我々はこれで失礼する!」
親子とゆったりとした時間を過ごし、太陽が少しずつ傾きかけた頃、杏寿郎はそう言った。
「いえいえ、私たちもついつい話し込んでしまいました。息子も楽しかったようです」
そう言って店主ははしゃぎ疲れ眠ってしまった龍の頭を優しく撫でた。
「よかったら、また遊びに来てくださいね」
『ありがとうございます』
3人は夫婦に挨拶をし煉獄家への道を歩いて行った。