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炎柱

第15章 美しいのは





ー…


祝言は滞りなく終わった。

両家の親達はめでたいめでたいと喜び、
はたからみれば幸せそうに見えるだろう。

……。
こうして、祝言を上げ、共に暮らしていれば…
自然と情が湧いてくるものなのだろうか。

私だって1人の女として、
望まれて結婚する事に憧れがあった。

…親が決めた婚約者…。
嫌ということも無いけれど…

私は杏寿郎さんから直接、
愛の言葉をかけられた事はない。


想い想われるって
どんな感じだろう…

祝言を上げたその日の晩。

これから、初夜を迎える美玖は、
月を眺めながら、小さくため息をついた。




ー…


スーッ…タンッ…


美玖の待つ部屋に杏寿郎がきた。

黙って襖を開き、中へと入る。


布団の隅に座っていた美玖のすぐ向かいに、
ストンと腰を下ろすと、美玖に声をかけた。


美玖、少し話さないか?


…はい?


思いがけない一言に、
ついまぬけな声が出てしまった。

そのまま杏寿郎に手を引かれ、
縁側に二人並んで座った。

その日は、とても美しい満月だった。
夜ではないかのように月が明るく光り、庭の木々や屋敷を照らしていた。


美玖、君と祝言をあげられたこと
本当に嬉しく思っている。ありがとう。

しっかりと伝えた事がないと思ってな。

俺は、君の事をずっと好いていたんだ。


美玖は思いがけない言葉に、
声を発する事ができず、杏寿郎の顔を見た。


ー…目が、合った…初めて…

その時、いつもどこを見ているのか分からなかった杏寿郎と、
この日、初めて目が合った。

杏寿郎が美玖の瞳をじっと見つめていたからだろう。

杏寿郎の真剣な眼差しに、
心がざわざわと落ち着かない。
まるで炎のように輝く瞳に囚われてしまったかのように、
目を逸らす事ができなかった。


しばらく見つめ合っていると、
杏寿郎は美玖の髪を一房持ち上げると、
その髪に口付けをした。


やはり…美しいものは、愛でたくなる。


髪に口付けを落としたまま、
杏寿郎に上目遣いで美しいと言われ、

美玖は白い肌を紅く染めていた。



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