第8章 炎柱の恋 杏寿郎side
ー…
鬼殺の任務終わりに、
途中の街で夕餉を取っていた。
ふと、人が行き交う道を見ると、
美玖に似た人影が見えた。
…美玖…か?
しかし、もう戌の刻をとうに過ぎている。
こんな時間に
出歩くような娘ではない…が。
何故か気になり、急ぎ店を出ると、
美玖と思わしき人物が
歩き去った方向へとむかう。
人違いであればいいが…。
少し行くと、
先程の人影が見えてくる。
…あの着物。
間違いない、美玖だ。
ゆっくりと、
頼りない足取りで歩いている。
少し…痩せたように思える。
俺の…せいだろうか。
ガラガラガラガラッ
…!
近くを馬車が通り過ぎる。
まただ、
美玖の事を考えていると、
周りが見えなくなってしまう。
馬車が通り過ぎ、
美玖の方を見ると、
急に路地の方へ入って行った。
何かに引っ張られるかのように…。
…!?
なんだ?
嫌な予感がする。
急いで近付こうとするが、
人の波に押され、なかなか進めない。
ようやく、美玖が曲がった路地へ入る。
すると路地の先の方で、
男達と何かの店の前にいる美玖が見えた。
2人の男が、
美玖を囲うように密着している。
自身の胸の奥の方から、
ふつふつと怒りがこみ上げてくる。
何故…今まで気が付かなかったんだ。
美玖の側に、
見知らぬ男が居るだけで…
これは嫉妬だ。
俺はあの男達に嫉妬している。
何が兄だ。
このような者、兄とは言えない。
俺は、美玖の事を
1人の女として大事に想っていたようだ。
漸く出た答えに、
頭の中のもやもやが消え、
いっそ清々しい気分だった。
俺は、君の気持ちに、
応えてもいいのだろうか…。
俺の手で、幸せにしてやりたいと、
そう、願ってもいいだろうか。