第10章 最終章 最後の歌
*ジャーファル目線*
(・・・・・・まったく、どうして彼女はあんなに可愛いんだ)
文官への頼みごとについての話を片付け、新たな仕事を抱えて部屋へ戻る最中、私はずっと愛しきミルカのことを考えていた。
誰にでも優しく、誹謗中傷など全くしない。御伽話の女神のような女性。
料理も天才的で、一つに束ねた髪は太陽の光そのもののよう。
笑顔が眩しいほどに可愛らしくて、守らずにはいられない、
大切な私の・・・・・・婚約者。
実は今回、文官へ頼んだ事というのは・・・・・・彼女へ渡す婚約指輪についての話だった。
彼女には花が似合う。だから花があしらわれた指輪にしたいと考えているのだが、どんな花がいいのかわからなかったので、聞いていたのだ。
花の種類は決まったので、あとは装飾品の加工職人に作ってもらって、渡すだけだ。
彼女の手を取り、指に指輪をはめたら、彼女はどんな反応をするだろうか。
笑うだろうか?いや、彼女は泣き虫だから、きっと泣いてしまうだろう。
そうやって彼女のことを考えているだけで、心は躍るようだった。
もう、彼女は私のものなのだ。早く式を挙げて、彼女を完全に私のものにしたい!
そう思っているうち、早く恋人に会いたくなった私は急いで部屋に戻り、扉を開いた。
そこには彼女が「おかえりなさい」と言いながら微笑んで――――――
いるはずだったのに。
彼女は何処にもいなかった。
「え・・・・・・ミルカ?どこにいるのです?」
私は部屋の中も、近辺も探した。しかし彼女はおらず、名前を呼んでも返事はなかった。
胸騒ぎがして、部屋に戻る。すると、床に何かが落ちていることに気付いた。
彼女の、髪紐だった。
「ミルカ・・・・・・・・・・・・!!」
私は突然姿を消した彼女を探すため、部屋を飛び出した。
彼女は髪紐を寝る前にしか取らない。きっと何か伝えたくて
取ったのだろう。
例えば、襲われたとか。
そう推測すると、もうそうとしか考えられなくなった。