第10章 最終章 最後の歌
「ミルカが行方不明!?どういうことだ、ジャーファル!」
「いないのです、何処にも!彼女は私に黙って遠出するようなことはしませんし、部屋には髪紐が落ちていたのです」
私はとりあえずシンに事情を説明し、八人将全員に探してもらうよう許可を得た。
彼女は以前、狙われて怪我もしている。何者かに連れ去られた可能性が十分にあるからだ。
話が終わってすぐ窓から飛び出して壁をつたい、地面に着地してすぐ辺りを見回す。
しかし彼女は、何処にもいない。
市場を歩いてみる。
『あっ、これ!ジャーファルさん、似合うかもしれませんよ?』
彼女の声を聞いた気がした。
そう、つい最近彼女と買い物に出て、花の髪飾りを勧められて遠慮したことがあった。
もちろん冗談ですよと可笑しそうに笑う彼女が可愛らしくて、私まで笑わされた覚えがある。
森に来てみる。
『わあ、美味しそうなパパゴレッヤ!果実酒にして、一緒に飲みたいわ!』
果実を手にし、微笑む彼女の残像らしきものが見える。
あの時は私が彼女をデートに誘って、ここへ来て・・・
木漏れ日が差しこむ樹の下で彼女と長い時間キスをしたのを覚えている。
居住区も覗いてみる。
『あら、どうしたの?・・・・・・迷子かしら。名前は?お父さんとお母さんは何処へ行ったの?』
ここでは迷子の女の子を発見し、その子の親を探すうちに私たちがお父さんお母さんと呼ばれ赤面したのを覚えている。
何処を探しても、彼女がいない。
陽の光そのものと言える金色の髪と瞳を持ち、女神のように美しくて優しく、天才的な料理の腕を持つが実は泣き虫な、私の可愛いミルカの手を、いつでも私は握っているはずだった。
いつだって、すぐ隣にいたはずだったのに。
右を見れど左を見れど、彼女は居なかった。
心の奥底にぽっかりと穴が空いてしまったような感覚になる。
それがとても耐え難くて、私は彼女を探すため再度走り始めた。