第10章 最終章 最後の歌
彼と恋人同士になってから、幾つか季節を超えた今日。
私は彼の部屋で、彼の仕事を手伝っていた。
自分の仕事で忙しく、昼に手伝いすぎると夜に動きにくくなってしまうので、あまり多くは手伝えないけれど。彼とこうして一緒にいられる時間は、私にとってかけがえのない大切なものだった。
いつもそうなのだが、今日はいつもとは少し、違う気分だった。
だって、私と彼はもうすぐ・・・・・・・・・夫婦になるのだから。
それを意識してしまって、お互いにどうも恥ずかしいのだ。
「・・・・・・・・・・・・」
そのせいで身体は火照るし静寂は続くし、なんだか気まずかった。
でも、十分に幸せな時間だった。
愛されていることを自覚できる時間。
それ以上に大切な時間など、ありはしないのだから。
「あっ・・・・・・しまった、資料を置き忘れてしまったみたいです。取ってくるので、そのまま同じ作業をしていてください」
彼がそんなことをするなんて、少し珍しいな。
私はそう想いながら彼を見た。しかし彼は私が寂しがっていると思ったらしく、私の体をぎゅっと抱きしめて、髪にキスを落としてくれた。
手を振りながら笑顔で部屋を出る彼に同じように手を振って、私は一言彼に告げた。
「いってらっしゃい、ジャーファルさん」
それが、私たちの最後の幸せな時間の、終わりの合図だった。