第9章 甘い約束
*ジャーファル目線*
ようやく見つけた彼女は、何を思ったのか後ろに後ずさり、身体が夕方の橙色の光へと沈んで行こうとしていた。
「ミルカーーーーーっ!!!」
私は彼女の後を追って崖から飛び降りた。
意識を失っているのか目を閉じ身体を風に預けている彼女に向かって眷属器を放ち、その糸を巻きつけ、ぐっと引き寄せた。
そして彼女をしっかりと抱きしめたまま、私達は海の中へと落ちていった。
幸い岩肌からは距離があったため、身体を打つことはなかった。私はすぐに泳いで水面から顔を出し、砂浜まで彼女を抱いたまま泳いだ。
砂浜に彼女を寝かせて気づいたが、彼女は息をしておらず、いつも暖かい手も冷たくなっていた。
まずい、これでは彼女が命を落としてしまう・・・!
「・・・仕方ない、勝手にこんな事をされるのは嫌でしょうが、緊急事態ですから。ミルカ、許してください・・・・・・・・・」
私はそう呟くように言って、彼女の口に自分の口を重ね、息を吹き込んだ。
しばらくそうしていると、彼女が息を吹き返したので、私は一安心した。
すると同時に、先程までの辛い話や出来事を一気に思い出してしまい、涙が溢れてきた。
穏やかな表情で眠る彼女の髪は、夕日を受けてキラキラと輝いていた。
私はそっとその髪を手で梳き、キスを落とした。
純粋なミルカ。優しいミルカ。
彼女は何も悪くないのに。どうしてこうなってしまったのだろう。
私は彼女を追い詰めた自分が嫌で嫌でたまらなくなってきた。
だからといって、彼女を他の男の元へやる訳にはいかない。
私は彼女を抱き上げて、王宮へと帰るべく歩き出した。
彼女が軽く、笑っていた気がした。