第8章 透明愛歌
*ミルカ目線*
私は走って走って、海の上に位置する崖まで来てしまった。
一体どの道を走ったのだろう。何を考えていたのだろう。
何も解らなかった。
『いいのよそれで。貴女は自分が嫌で逃げ出した。それでいいの。悲しいことは全て、風に乗せて何処かへ運んでしまいなさい』
何処からか聞こえてくる妖艶な声。私は自然とその声に従って、歌を歌った。
後ろから吹く風に乗せて、海を渡って、遠く彼方まで・・・
届け、私の歌。
「ミルカ」
ちょうど歌が終わったと同時に、後ろから優しい声が聞こえた。
彼は涙を流しながらこちらへ歩み寄ってくる。
そんな彼に抱きついて、謝れば良かったのに。
それで良かったはずなのに。
私の体は意思とは裏腹に、後ろへ下がっていた。
「危ない、ミルカっ!!」
彼の声が聞こえると同時に、
足場が崩れて、私の身体は宙に浮いた。
「ぁ・・・・・・いやああああああああっ!!!」
怖さのあまり、何も考えられなくなった時、
『その歌・・・・・・兄さんに捧げてもらうわ、ミルカ」
ツミテ先輩の声が、自分の中から聞こえた。