第8章 透明愛歌
私は彼女の後ろ姿を必死に追った。足を精一杯動かした。
しかし不思議と、彼女との距離は開いて行く。
途中で私の視界に、一人の女性が映った。
ミルカの親友の、ユウナさんだった。
「ジャーファル様・・・少々お時間を取らせて頂きたいのですが、よろしいですか?」
私は彼女の頼みを断ろうとしたが、彼女がちらっと後ろを向き、またこちらを向いた為、ミルカに関係のある話だと察して彼女と人通りの少ない場所へ移動した。
「ありがとうございます。・・・・・・すみません、私は貴方に謝らなければならないことがあるんです」
彼女は休憩用の小さな椅子に座って、急に頭を下げた。
「えっ・・・ど、どういうことですか?」
「・・・私、貴方たちの会話を盗み聞きしていたんです。本当に、失礼な真似をしてしまいました。すみません!」
彼女が深く深く頭を下げるものだから、私は耐え難くて頭を上げさせた。
すると彼女はぺこりと一例し、自分とミルカのことについて話し始めた。
「私はミルカにも隠していることがあるんです。それは、魔法が使えること。
私だけそんなものに恵まれてるだなんて彼女が知ったら傷つくだろうから、気づかせないために、あの時わざと彼女を無視していたんです」
あの時、とはミルカがいじめられていた時のことだろう。
「私が下手に介入すれば、魔法が使える先輩達にばれてしまうから・・・今ではあそこまでする必要はなかったと思っていますけどね。
えっと、だから彼女には、私とは対等な立場だと思わせたかったんです。彼女が劣等感を持たないために。
あの子はとても優しい人なんです。誰かのために自分の力を尽くそうとしている。それ故に自分に欠けた部分があると不満に思ってしまうようなんです」
彼女が淡々と話している間、私はずっと彼女のことを考えていた。
確かに彼女は魔法が使えず剣も振るえない事を不満に思っているようだった。
私のために戦いたいと言ってくれた。
でも、そう出来ない。私も彼女にそんなことをして欲しくない。
「・・・ミルカには、彼女にしか出来ないことがある。それをどうか、わかってあげてください」
彼女はそう言って、立ち去っていった。
私はゆっくりと立ち上がり、王宮を飛び出した。