第6章 悪夢の中の貴方
「・・・ミルカ?」
ジャーファルさんの声が、確かに私の耳元に届いた。
彼が目を覚ましたのだ。
「ジャーファルさんっ・・・!」
私はぼろぼろと涙を流しながら、ゆっくりと起き上がった彼に抱きついた。
「うわっ・・・・・・ふふ、そんなに不安だったのですか?
大丈夫ですよあれくらい。まったく可愛いですねえ・・・」
彼は私の背中をさすりながら、にこにこと笑っていた。
サリさんと戦っていた時とは、まったく正反対の笑顔だった。
私がごめんなさいと呟くと、彼は何も言わず私が背中に回す手をとった。
彼の手は少し冷たかったけれど、私の手から体温を奪い取っているようで、穏やかな笑みを浮かべていた。
そして私の手を話すと、私にそっと顔を近づけた。
唐突でとても驚いたけど、拒む理由はなかった。
私は目を閉じながら待った。しかしなかなか来なくて、私はそっと目を開けてみた。
そこには満足だと言わんばかりのにやけ顔をしたジャーファルさんの顔があり、私は少し腹が立った。
「もう、わざわざ私の顔を見るためだけにそんなことを・・・!?」
「ちっ、違いますよ!確かに君が口付けを待つ顔は綺麗で見とれてしまったのは事実ですが、決してそのためではないですよ!」
彼はあたふたしながら私に語りかけた。私はなんだか恥ずかしくなってきたので、顔を背けて頬を膨らませた。
すると彼は、私の頬をむにっとつまんだ。
「ひゃっ・・・!?」
「ふふふ、可愛らしい。その顔は大好きですよ」
私は抗議しようと彼の方に身体を少し寄せた。
彼はそのタイミングを逃すことなく、私の唇にそっと自分の唇を重ねた。
彼の顔が信じられないほど近くに見えた。
驚きと恥ずかしさですぐに目を閉じたけれど、本当は彼の瞳を近くで見たかったと思う。
しかも今日は、私の口に彼の舌が入ってきた。
「・・・っ!!」
妖艶に動き回る彼の舌は獲物を貪る獣のようで、私の口の中を縦横無尽に這い回っていた。
少しすると舌と唇が離れ、私はやっとちゃんと呼吸をすることができた。
私はさらに抗議しようと思った。でも、急に襲ってきた睡魔に勝てそうになかった。
「・・・ご馳走様でした。嗚呼、美味しかった」
眠りの世界に堕ちる前、そんな彼の甘い声と媚薬の香りを確かに感じた。