第2章 ルフの導き
「この鯛と、そっちの蟹と・・・・・・あ、あとその魚もください!」
魚や貝が沢山入った大きな網の並ぶ砂浜に、私の声が響く。
今日は大漁らしく、いつもより多くの魚が網にかかっていた。
「はいよー。いつもありがとう、ミルカさん!今日は大漁だし、これも持って行きな!」
「わあ、ありがとう!」
今回買わせてもらった魚の入った網と、おまけにもらった網を両手で持ち、私は帰路についた。
夕方は少し危ないので、まだ西日の指す道の方へ迂回する。
揺れる波に光が当たって、キラキラ輝いているのが目に映った。
綺麗だなあ・・・と見とれていると。
波の揺れが少しずつ激しくなった。私は身震いして、一歩後ずさった。
(なに・・・・・・・・・!?)
大きく揺れる海から出てきたのは・・・南海生物、アバレウツボだった。
「きゃあああ!」
驚いて叫び、尻餅を付く。
ここはシンドリアの端のほうで王宮からも少し距離があるので、急いで逃げて、伝令を伝えなければならない。
でも、足が動かなかった。
アバレウツボは大きく口を開け、鳴き声を挙げる。今にも私を食べようとしているようだった。
(いやっ、いやあ・・・・・・・・・!)
すぐ近くにいるせいか、恐怖でもう声すら出ない。
覚悟を決めて、目を閉じ下を向いた。
「バララーク・セイっ!」
聞き覚えのある声が海岸に響いた。鈍い音と、断末魔の叫び声も聞こえてくる。
恐る恐る目を開けると、そこには・・・・・・
八人将のジャーファル様がいて、目が合った。
「大丈夫でしたか?危ないところでしたね・・・」
手を差し出す彼。私は急に安心して、目に涙が滲んできた。
「す、すみません・・・私の不注意のせいで・・・・・・」
泣きながら謝る私を見て、ジャーファル様は驚いていた。
「ああ・・・・・・いえいえ、仕方ないですよ。南海生物の出現は、誰にも予測できませんからね・・・・・・立てますか?」
彼は私の手を取り、立たせてくれた。
「あ・・・その服。もしかして王宮の料理人の方ですか?」
「は、はい。そうです」
「そうだったんですね。なら一緒に戻りましょうか。また何かあっては困りますし」
そう言って、彼は私の前を歩き始める。その背中を見ると、すごく安心した。
このとき既に運命の歯車が動き始めていることに、私たちは気づくこともなかった。