第5章 ネックレスは悲劇を呼ぶ
彼の部屋は入ってみると必要最低限の生活用品と仕事のために必要な物だけがあり、結構片付いていた。
「ふふ、片付いていると思ったでしょう?実は昨晩、貴女を呼ぶために片付けたんです。まあ、すぐに書類で散らかってしまいますがね・・・」
机の傍の椅子に座るよう私の背中を押して誘導しながら、彼は私の耳元で囁くように言った。
それがなんだかくすぐったくて思わず身を固くして黙り込むと、彼はそれが気に入らなかったらしく、不満げな顔で自分の椅子に腰掛けた。
そして椅子ごと私に近づくと、私の耳にそっと口づけし、ふっと息を吐いた。
「ひゃあっ!!」
「固い。彼氏の部屋なんですから、そんなに油断した顔をしない。・・・・・・襲いたくなる」
どんどん顔が赤くなっていく彼は袖で顔を隠し、
照れ隠しのためかぷいっと後ろを向いてしまった。
・・・言っていることは獣のようなのに、やっていることは女性のようで自然と笑みが溢れてくる。
笑いを隠せないでいると彼はこちらへ向き直り、まだ赤い顔で「笑わないでくださいよっ・・・!」と言って少し怒ってしまった。
私は彼をなだめるのに数十分の時間を費やしたが、その時間も私にとってはとても大切な思い出となっていた。
・・・祖父との思い出と、同じくらいに。