第1章 茶会での出会い
だが朱里は怪訝そうな顔をした。
秀吉はあれ……と困りながらどうしようかと悩む。
光秀の言う通りにしたがどうやら彼女には効かないらしい。
「ええと、他の姫君達は帰られましたが朱里殿は大丈夫なのですか?」
『父を待っています』
「あっ、そうなんですか……」
そこで話が途切れる。
秀吉は女との付き合いは慣れており大丈夫かと思っていたが思ったより朱里は難しかった。
声を出して喋らず筆談。
そして、単純かと思っていたがその瞳にはやはり警戒の色。
困っていると何処からか声が聞こえて走ってきたのは綾だった。
焦った表情で走ってくると朱里の傍にいる秀吉を見て警戒した表情に変わる。
「姫様、申し訳ありません。お父上様は信長様に呼ばれておりまして……。先に戻るようのことでございます」
『分かったわ、ありがとう。綾』
信長に呼ばれている。
その綾の言葉に秀吉は眉間にシワを寄せた。
何かあったのか、もしくは乃木が動いたのかと考えがていると目の前に朱里が現れる。
『それでは失礼します』
「あっ、ああ。後日また伺う時に文を出します」
朱里は頭を下げてから綾と歩いていった。
彼女の後ろ菅田が見えなくなると秀吉は急いで信長の元へ足早に向かう。
そして家臣に居場所を聞くと乃木は広間にいるということ。
慌てて向かうとそこには信長と乃木と光秀の姿。
「秀吉か。朱里を見送っていたのか?」
「はい。久しぶりだな、乃木」
乃木を見ながらそう言うと彼は柔い笑みを浮かべた。
その笑みからは不審な動きをしているとは思えず、分かりにく男だと心の中でそう呟く。
「秀吉様。朱里を口説いていると聞きましたが……娘がお気に召しましたか?」
「……そうだな。少し他の姫君と違って気になったが別に口説いてはない」
「本当か?あれは口説いているように見えたが?」
ニヤニヤしながら光秀はそう言い、余計な事をと秀吉は睨みつけたがわざとらしく光秀は『怖い怖い』と言った。
それが余計に腹が立つ。
「朱里姫には言ったが、近いうちに城に伺うつもりなんだ。良いだろうか?」
「構いませんよ。是非、来てくださいませ……。きっと朱里も喜びます」