第2章 逢瀬
乃木佐一、何を企んでいるのかは彼女からは聞けなかった。
ただ何かを企んでいるとか教えられず、秀吉は謀反への疑いを強める。
(乃木は恐らく、謀反を企んでいるはず。だがその証拠がない……姫の証言だけでは……)
秀吉は馬を走らせながら安土城へと急いだ。
そして直ぐに信長が居る天守閣に向かい、今朝のことを伝えた。
「ほう……何かは企んでいるか」
信長は海外から取り寄せた地球儀を回しながら、唇に薄い笑みを浮かべた。
「謀反の疑いがたしかになってきたな。だがまだ証拠がない……」
「はい」
「証拠も何も、なにか企んでいるだけで怪しいだろう。もういっそう、とっ捕まえて拷問でもして吐かせればいいんじゃねぇのか?」
話を聞いていた政宗が笑いながら言った。
「それもひとつの作だろうな。だが、相手がもし謀反を企んで居なかったどうする?政宗」
「その時はその時だ、光秀」
「ですが……何故朱里姫は、お父上である乃木様を恨んでいるのでしょうか?」
三成は首を傾げながらそう呟いた。
「理由はお聞きしなかったのですか、秀吉様」
「聞いたが微笑まれるだけだった。だが、恨みがあるということは乃木……父親に何かされたのだろうな」
秀吉はあの時の朱里の顔を思い出した。
恨んでいるという文字を秀吉に見せていた時、彼女は心の底から傷ついた顔をしていたのと同時に、その瞳には恨みがこもっていたのを……。
「秀吉、引き続き朱里を誑かせ」
「は、はっ……!」
「上手く利用して、乃木が企んでいることを話させるんだ。そうだな女中から話も聞いてみるといい」
「畏まりました。ですが御館様……」
「なんだ?」
「俺にはこういう仕事は向いていないような……何故、今回俺を……?」
秀吉は謎だった。
今まで女を誑かしてこいという命令は受けてこなかったのだから。
「それは」
「それは……?」
「女誑しで人たらしのお前が、仕事になるとどう女を誑かすのか気になったからだ」
秀吉は唖然とした。
ただそれだけの理由でと思ったが、信長は何か考えが会ってそう言っているのではないかと考えた。
だが信長はただ、秀吉が仕事になるとどう誑かすのか見たかっただけである。
「引き続き励め」
「は!」
秀吉はそうとも知らず、信長に頼りにされて喜んでいるのであった。