第1章 茶会での出会い
~三人称~
秀吉はまずどうやって話を聞こうかと悩む。
今ここで聞くにも女中の綾がいて下手な事は聞けず、周りにも人が多くいる。
悩んだ末、あることを思い付いた。
脳裏に浮かんだのは茶屋に行くこと。
(待てよ。茶屋に行くとしても話すことのできない朱里姫には女中がついて来そうだ)
なら茶屋は無理。
なので違う事を考えた。
「朱里姫、よろしければ後日貴女の元を訪ねてもいいだろうか?」
『城にですか?』
「はい。お恥ずかしい事に俺は貴女の事を知りたくて」
口説き文句にも近い事を言った秀吉は、後から恥ずかしくなった。
普段ならこんな事は言わないのに仕事といえ恥ずかしくなった秀吉は頬をかく。
すると視線を感じて朱里の隣にいた綾が睨んでいた。
その瞳には敵意を感じる。
そんな綾に気づいたのか朱里は彼女の袖を掴み、首を横に振った。
恐らく『睨んでは駄目』と伝えているのだろう。
『何故私の事を知りたいのか分かりませんが、構いませんよ』
スラスラと本に文字を書いた彼女は、その文字を見せた。
ニコッと微笑みながら。
「ありがとうございます、朱里姫。では伺う日が決まれば手紙をお送りいたします。では」
秀吉はそう伝えて、信長の元へと戻るために歩きだした。
後ろでは朱里がジッと見ている。
先ほどの笑みは無く、少し警戒した表情で。
「で、どうだった?」
帰ってきた秀吉に信長がニヤニヤしながら聞いてきた。
彼は少し疲れた顔になっているため、光秀と政宗は面白そうに笑っていた。
「後日会うことにしました。ただ、意外と単純そうなので大丈夫かと思います」
「そうか。箱入り娘のようだからな、単純は単純だろう」
「はい、ですが少し厄介そうな人物がいまして‥‥」
秀吉は綾の存在を話した。
厄介そうな事と以上に警戒していたことを。
その行動から乃木家は何かを隠しているのでは‥‥と話し合う。
だが単に朱里姫に近づいたから警戒したのか
そこが分からずに全員が悩んでいた。
「まぁどっちなのかを秀吉が探るのが仕事だからな。頑張れよ」
「ああ」
「しっかりと励めよ。ただ、あの娘に魅了はされるな」
「はい?」
どういうことだ、と秀吉は首を傾げた。