第1章 茶会での出会い
「集まったな」
「それで信長様、お話とは?」
信長様のいる場所は、他の武将達には話が聞こえない桜並木の置く。
なのでこの場に集めたのだろうと俺は思っていた。
「お前たち、乃木家は知っているか?」
「乃木‥‥乃木佐一(のぎさいち)でしょうか?」
光秀が訪ねると信長様は頷く。
乃木佐一は織田家に遣える武将であり、信長様に忠実な男。
そして妻は一人で娘も一人。
一夫多妻のこの時代で妻が一人というのは珍しく、他の武将達はそれほど妻を愛しているのだと話していた。
その話の通り、乃木は妻の話をするときはとても楽しそうにしていた。
「乃木が、どうかしたのですか?」
「最近あやつが不審な動きをしていると、あいつの家臣に聞いてな」
「不審な動き?」
「ああ。探る必要がある‥‥秀吉。お前、あやつの娘を誑かしてこい」
一瞬、その場が静まり返った。
俺の脳内も止まっており、目を何度み開けたり開いたりをする。
そんな中光秀は俺を見て、ニヤニヤとしている。
その顔が妙に腹がたつ。
「はっ!?」
「あやつには一人娘がいるのは知っているな?」
「はっ、はい」
「名前は朱里。今年17になる娘だが言葉が話せない」
言葉が話せない?
そこに引っ掛かった。
何故言葉が話せないのだろうと疑問に思う。
「朱里はとある事件に巻き込まれてな、言葉が話せなくなったらしい。で、その娘を誑かして探ってこい」
「ちょっ、ちょっと待ってください!何故俺なのですか!?」
こういうのは光秀がいいと思うんだが!
騙したり、誑かしたりするのは光秀が上手いことを知っている。
しかも俺はそんな事をしたことがなかったため、出来るのか不安が募る。
「お前は女によくモテているだろう。その顔だったらどんな女でも落とせる。やってこい、これは命令だ」
「‥‥っはっ、はい‥‥」
「頑張れよ~、秀吉!」
向こう側では政宗が冷やかしてきて、光秀は腹が立つ顔でニヤニヤ。
家康は無表情で三成は小声で『頑張ってください!』と言ってきた。
正直言うと自信がないのと、女を騙すことは好きじゃないため嫌な気持ちがあった。
だが、信長様の命令に逆らうこともできない。
『朱里は牡丹の着物を着た女だ』